トップインタビュー:サードプラネット代表取締役社長・村井英之氏
‐‐店舗コーディネートカンパニーとして多岐に渡る業態開発を行っていますが、具体的な内容を聞かせて下さい。
村井 基本的には土地や商業ビルの有効活用を提案し、高利回りの店舗開発を行っています。企画、設計からインテリア、金融交渉、アフタフォローまで全てをプロデュースするニュービジネスです。最近はカラオケボックスと飲食店を複合させた店舗の開発に本腰を入れています。
‐‐頭脳的な展開をなさる御社にとって最近の景気低迷をどのように受けとめていますか。
村井 一番良い方向に向かっていますね。バブルが弾け、需給のバランスが正常に戻りつつあります。とくに金融機関が落ち着きました。以前の金融機関はリスクが大きくても、高利回りなプロジェクトに偏った支援を行って来たが、最近は等価交換もにぎやかになり、安定的なビジネス、つまり日銭の入る飲食ビジネスなど店舗レベルの融資にも積極的な傾向が見られます。
企画する側も昔のように甘い商売はしていない。有名デザイナーが立案した空間など、“憧れ”のビジネスが成り立たない。外食にしても高級な仏料理などが落ち込んでいますが、適正価格を知った消費者が、“憧れ”よりも実物を訴求しています。また与えられるよりも自ら模索する志向も強まっている。ディスカウント店の台頭がいい例ですね。
‐‐飲食ビジネスへの移行ですか。
村井 違います。あくまでも飲食とカラオケの長所をミックスした新しい事業です。飲食業は人件費三〇%、食材原価三〇%、一般管理費一〇%の計七〇%の経費が相場ですが、これでは都心部でのビジネス化は難しい。ただし、これを粗利五〇%のカラオケボックスと複合化することで、約六〇%までトータルコストの引き下げが可能となります。例えば喫茶店とショットバーの二毛作店を展開する「プロント」の形式と同じですね。稼働率を高めることで高立地での展開、高リターンの仕組ができるのです。実現するためにはカラオケ、飲食を混同した中途半端なやり方はいけません。それぞれのノウハウを別々に蓄積し、片方のみの店舗でも集客を可能とするようレベルアップを図らなければ。
‐‐御社ではどのような取り組みをされているのですか。
村井 カラオケボックスビジネスに先べんを付けている西麻布店ではカラオケボックスのみ、柏店では複合店、六本木店では飲食店のみの店舗を展開し、それぞれのノウハウを蓄積しています。主力のメニューはエスニックを基調としたアジア料理です。
‐‐なぜエスニックなのですか。
村井 カラオケボックスの対象客は女性がほとんどで、しかも美容を気にする一五~三〇歳くらいの嫁入り前の方が多いのです。そのため先ずはヘルシーであることに着目しました。中華や洋食のように家庭料理と化しているメニューも少ないので、外食を楽しむ意味でも好評を得ています。
‐‐カラオケボックスビジネスはどんなきっかけで始めたのですか。
村井 先ず利益率の良さです。人件費二五%、全体の売上げの四割(その内ドリンクが五割)を占める飲食の原価率が一五%、一般管理費を一〇%としてトータルで五〇%。粗利が五割ですから驚異的ですね。
だがカラオケビジネスはもはや成長期を越え安定期にさしかかっています。今後はメーカーの競合にも一層拍車がかかり店舗のさらなる増加が予想されます。いずれはディスカウントの競争が始まり現在の高粗利の体制は維持できないでしょう。
‐‐対応策はあるのですか。
村井 カラオケボックスビジネスはレンタル事業としてメーカーが提案してきたため、音楽以外の提案はほとんど皆無、飲食はないがしろにされてきた。最近カラオケは消費者からもレジャーの一つとして認知されており、当然、食の充実化を要望する声が高まっています。とくに社会人にはそうした傾向が強いですね。ですからやはり不動の需要価値とレジャー感覚を持ち合わせた飲食業との複合化がベストです。
‐‐今後の展開は。
村井 現在展開する三店舗それぞれのパターンでFC展開する方針です。つまり今後の経営に懸念を抱く飲食店にはカラオケボックスのノウハウを、カラオケボックスのみの事業から脱皮を図る経営者には飲食店のノウハウを、何か始めようとするオーナーには複合店を勧める意向です。弱点補強と使い勝手の良さをPRにして行きます。
‐‐今後のカラオケボックスビジネスの展望は。
村井 宴の習慣で、夜は歌って飲んで食べてと、歌と飲食は日本人にとってかけ離せないもの。したがってカラオケも流行で終わることはありません。ただ外食産業がカラオケビジネスへ本格参入した場合、カラオケ業界の再編は必至です。過渡期を迎えた外食各社がカラオケに触手を伸ばしているのは周知の通り。「ジョン万次郎」のようにカラオケとの融合で相体的に原価率を抑え利益率を上げるケースは一〇年後は当たり前となるでしょう。
‐‐最後に外食についての考えを聞かせて下さい。
村井 食は人間の欲求ですが、現代は遊びの感覚を帯びている。外食に食べるだけの行為はもはや期待されていない。食べるだけならCVSやSMの弁当で十分なのです。なぜ外食をするかは、そこにコミュニケーションの楽しさを求めるからです。今後はおいしくて高い店よりも、安くて楽しめる店が支持されると思う。そんなコミュニケーションの手段としてカラオケが活用されれば嬉しいですね。
‐‐ありがとうございました。
村井英之(むらい・ひでゆき)氏=昭和33年生まれ、37歳。
レジャー施設の“仕掛人”として現在までに約350にのぼるさまざまな店舗を開発。とくにプールバーの出店は150を数え、一大ブームの火付役となった。
平成2年、(株)サードプラネットを設立。同社は企画の立案から施工、運営に至る全てをこなす店舗コーディネート企業を標榜する。カラオケボックスの過渡期をいちはやくにらみ、飲食業との複合化を提唱。トータルコストの削減をコンセプトに自ら3店舗を直営展開する。
先立ってオープンした「アジア酒家・ナムナム柏店」ではボックスの回転率5回を記録。粗利4割を達成した。食とカラオケのコーディネーターとして飲食店やカラオケボックスに複合化を啓蒙。現在の店舗を足場にFC事業へ乗り出している。
(文責・岡安)