「癒される」おかゆがコロナ禍でブームに

おかゆに注目が集まっている。メーカーがレトルトやカップで新商品を出し、専門店も都内中心に増えている。「風邪ひいた時か、旅館の朝食」という従来の“特別な日”に食べるイメージから進化した、バリエーション豊かなおかゆは「映える」要素も持っている。飲食店検索サイト「ぐるなび」では、検索件数も上がり、一昨年9月からの直近までの2年間で都内のおかゆを提供する店が1.6倍に増えたという(産経新聞調べ)。具材やだし、トッピングなどが多彩になり、見た目も美しい。なぜいま、おかゆがブームなのだろうか。

数年前からじわじわと人気

おかゆブームは数年前からじわじわきていた。近年の傾向としては、雑穀などを使用してさらに健康的なイメージを打ち出しているのが特徴の1つだ。また、バリエーションも、中国かゆがベースとなり、洋風、和風など自由な発想で作られるようになり、「カフェ風」「エスニック風」など個性的なものまでも出ている。

米菓メーカーの亀田製菓は、昨年2月に玄米や雑穀を入れて女性が好むパッケージにした、カップおかゆ「CONGEE <トマト味><きのこ味>」を発売している。またアフタヌーンティー・ティースタンドでは、茶葉を淹れたTEAを注いで食べるサラダがのった新スタイルかゆ「茶粥 えび塩トマト、ジャスミンティー」「茶粥 豚しゃぶとお豆腐、ダージリンティー」を2017年春に新メニューとして発売している。

亀田製菓のカップおかゆ「CONGEE」

今年の秋からはますます勢いを増している。ティーストアのTHE ALLEYでは、豆乳に加えて、鉄観音茶と野菜のうまみを抽出した「旨みだし」のTEA FOUN(ティフォン)を使用したおかゆ「柚子香る、ホタテの豆乳お粥ティフォン」を9月から発売して好評だという。豚バラ肉やホタテ貝に彩のよい野菜やナッツなどが加わり、見た目も食感も楽しい。

日本におけるタピオカブームをけん引したといっても過言ではない貢茶(ゴンチャ)では、初の食事メニューとして10月から3種類の「彩々粥(さいさいがゆ)」を発売した。錦糸町のCAYU des ROIS(カユ・デ・ロワ)には多数のメニューがあるがパルメザンとモッツアレラの2種類のチーズがたっぷり入った真っ白い濃厚なおかゆなども提供している。

穀物のリーディングカンパニーのはくばくでは、9月にもち麦、五穀、発芽玄米の3種類の「暮らしのおかゆ」シリーズを発売した。白米以外の穀物の粒感覚を残し、「がんばりすぎない」がコンセプト。心身の健康を意識した商品となっている。

はくばく「暮らしのおかゆ」シリーズ

中国では日常食 日本では癒し

そもそも中国では、日本とは異なり、おかゆは日常食だ。毎朝屋台でおかゆをモリモリ食べて仕事場へ向かう人々であふれる。そして、中国かゆは日本のような「癒される」食べ物ではなく、ラードでだしを取るなど、エネルギッシュな食べ物なのである。韓国もおかゆはよく食べるので専門店も多い。

日本国内の中国料理や韓国料理の店では、以前からコクのあるおかゆメニューはあった。しかしブームになるのは、数年前に大人気となったお店「糖朝」以来ではないだろうか。どうしてブレイクとなったのだろうか。

ブームになる理由の1つは、おかゆの利便性の高さだ。容器さえあれば、野菜、タンパク質、ご飯、そのほかのトッピングが自由に入れられるので、1つの容器で食事が完結できる。そして具材を選ばないし、国を選ばない。

加えてポイントは、粒であること、水分が多いことだと筆者は感じている。粒と水分の間に具材のうまみやだしの香りが入り込むので、全体にまとまりやすいといえるだろう。コメという存在の偉大な点だと再認識している。

スープストックトーキョーの「花見粥」

テークアウトにも便利

さらに、コロナでテークアウト需要が増えた現在、テークアウトには大変便利だ。他のメニューに比較して、持ち帰る際に揺れた際のリスクが少ない。冷めても電子レンジに入れれば味のクオリティーも保ちやすい商材といえる。

そして健康志向にも合っている。低カロリーであるため、コロナ太りやストレス太りを不安視せずに食べやすい。胃腸にも優しく、ストレスが強い状況下において、日本らしい「癒し」の役割も期待できる料理だ。

新型コロナウイルスといういまだ未解決の難題を世界全体で抱える現在において、人びとはこれ以上「複雑」だったり「難解」であるような新しいものは心情的に受け入れがたいのだと筆者は考えている。そういう意味でも、既存の料理やモノのテコ入れがヒットを作るのだ。ビジネスチャンスは、身近でなじんだものにこそ潜んでいると感じる。(食の総合コンサルタント 小倉朋子)

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