テークアウト専門ブルースターバーガーの「新しさ」はコロナ対応だけではない

「牛肉はまかせてくれ!」との声が聞こえそうな攻めの姿勢の外食企業ダイニングイノベーション。新たに手掛けたテークアウト専門業態の店「BLUESTARBURGER(ブルースターバーガー)」が話題となっている。代表取締役会長の西山知義氏は、「牛角」、「しゃぶしゃぶ温野菜」などを展開してきたレインズインターナショナルの創業者。ダイニングイノベーションでは、これも話題となった一人焼肉店「焼肉ライク」を開店させている。「牛肉」という商材をツールにして、既存の視点にとらわれず外食産業に新風を吹き込むダイニングイノベーション。筆者独自の目線で、新業態の「新しさ」を探ってみた。

170円ハンバーガー「原価率68%」の発想力

「原価68%!常に素材の “鮮度”と “作りたて” にこだわったバーガーを、170円~お手軽価格で利用できる新しいカタチのToGo専門店です」。

ブルースターバーガーのHPに掲げられているキャッチコピーには驚かされる。従来の外食産業の原材料費30%、人件費30%といわれているコスト構造を取り払い、フードテックを駆使し、人件費などを最小限に抑えることで、ハンバーガー170円(税別)の原価率を68%にした。また在庫と廃棄を極力減らすことで、常に新鮮で安全な食材を使用できるという。

東京・中目黒で10月にスタートしたハンバーガーの新業態は、まずは国内2000店舗を目指し、海外展開も視野に約1年半でフランチャイズ回収を見込むという。

ブルースターバーガー中目黒店に行列はない

手持ちのアプリから、または店頭のタブレットで商品を注文。決済すると、受け取り番号が発行される。店内にはピックアップ専用棚があり、そこから客は商品を受け取る。別の客の注文商品を誤って持ち帰ってしまうのでは、という筆者の余計な懸念は今のところ問題がないようだ。

スタッフが確認しながら受け取るシステムになっており、多くの監視カメラが設置されているという。完全キャッシュレスのテークアウト専門店のため、11月10日にオープンした中目黒店に行列はない。

「ブルー」によるブランド力強化

さらにここで筆者が注目したいのは「色」だ。既存のファストフードハンバーガーの店舗イメージカラーは、赤、オレンジ、黄色などの暖色系が定番で、食欲をそそる色とされてきた。そして、グルメバーガーと呼ばれる業態になると、落ち着いたグリーンや茶系になり、ナチュラルなイメージを打ち出してきた。

一方「ブルースターバーガー」は、店名通り、ブルーと対比には白色を効かせており、アメリカ西海岸の海辺のダイナーのようである。清潔感があり、女性客一人でも気軽にバーガーを頬張れそうなイメージづくりができている。

かつて青色は「食欲を減退させる色」とされてきたが、近年はその概念もくつがえされつつある。また事前予約注文の客を想定しているため、店の前に通って「あ、バーガー食べたい」と思わせ入店を促す店とは、そもそもの客の動機づけ行動が既存とは違うのだ。

「メニュー限定」を貫く理由は

次に着目したのは、メニュー。店内面積は10坪ほどで、スタッフは3人程度。あくまでもハンバーガーに焦点を当てたメニュー展開に限定している。そして、モーニング、ランチ、といった時間帯メニューの区分がないので、「バーガーが食べたい→バーガーを食べる」といった流れがすこぶるシンプルともいえる。

オープンキッチンで調理し、ライブ感たっぷり

店内飲食であれば、営業時間にいかに客数を集めるかを考え、アイドルタイムをなくすことが必要なのだが、テークアウトだけであるため、時間枠で捉える必要性が少ない。そのため、営業時間はモーニング時間はなく、午前11時~午後10時となっているのだ。

しかし、今後は、それこそ営業時間中にいかに潜在顧客に「ハンバーガー食べたい」と思わせられるかが課題になるかもしれない。多店舗になってきたときに、今のメニューを変化させていくのか、あえて変化させないのか。ハンバーガーというメニューを一人でも多くの人の生活の中に「日常食」として取り入れさせる戦略がないとシンプルメニューだけでは難しい側面も感じる。

「非接触」で売り手と買い手の関係性どう作る

「ブルースターバーガー」は、新業態のハンバーガー店なのだが、筆者にはどこか懐かしさを感じている。農家の畑に採れたての野菜が置いてあり、客は箱にお金を投入して支払う、昔から日本にあった売り方に似ている。農家の客の“良心”を前提にした売り方とは異なるものの、類似性を感じるのはどのポイントだろうか。

店内に設置されている商品ピックアップ専用棚

それは、どちらも非接触型という点。そして、両者とも一見商品とお金を交換するシンプルな関係性であるのだが、それだけではない。モノとモノの行き来の背景に、売る側と買う側には「信頼」があり、コンセプトは理解され、つながっていることが前提として成立する。

「何を商品とし」、「どう売るのか」、そして、「どんな関係性を今の客は望んでいるのか」。といった事柄に関しダイニングイノベーションは勘が上手に働いている。フードサービスに限らず、業種・業態の枠を超えて、「時代の取り込み方」、「消費者の心のつかみ方」を同社から教わることもありそうだ。(食の総合コンサルタント 小倉朋子)