マカロンも植物由来で…美食の都パリで広がるプラントベースフード

EU全体で酪農や畜産業が与える環境負荷や、アニマルウェルフェア(動物福祉)に対する考えが急速に広まっている。スーパーマーケットに多くの牛乳・乳製品が並ぶ酪農大国であるフランスで、若い世代の消費者を中心に牛乳から豆乳やアーモンドミルクなどの植物性ミルクに切り替える動きもみられる。今回はフランスで販売されている乳製品を使わないプラントベース(植物由来)の商品を紹介する。

「サスティナブル」な選択肢のニーズが高まり

パリ市内のスーパーマーケットには豆乳、アーモンドミルク、オーツミルク、ココナッツミルクなどさまざまな植物性ミルクが数多く陳列されており、大手スーパーマーケットのカルフールやモノプリもそれぞれプライベートブランドも用意している。

パリ市内のスーパーには植物性ミルク商品が数多く陳列されている

なぜ植物性のミルクなのか。これはエネルギー分野だけでなく、肉や牛乳・乳製品などの過剰消費もまた環境負荷となることが認知されるようになり、食事でも健康的かつ「サスティナブル(持続可能な)」な選択を取り入れたいというニーズが高まっているためだ。

ただし、EUでは原材料に乳製品を全く使用していない豆乳などに「ミルク」などの表示をすることはできないとしており、フランスでは”boisson”(飲料)と表示されている。

地球環境に配慮したマカロンとは

ケーキなどのスイーツの製造には通常、生クリームやバターなどが欠かせないものである。しかし、既存の商品に加えて新たに動物由来の材料を使用しない商品に挑戦するパティスリーも増えつつあるようだ。

Laduréeで販売されている植物性材料で作られたヴィーガン仕様のマカロン(左下)

パリを代表するスイーツであるマカロンは材料として主に卵白と砂糖、バターなどを使用する。しかし、そのマカロンを開発したLadurée(ラデュレ)やPierreHermé(ピエールエルメ)といった日本でも有名なパティスリーは、2020年に入りそれぞれ動物性食材を豆乳やココナッツオイル、ひよこ豆などに代替したプラントベースのマカロンを開発・販売した。

Ladurée公式HPでは「地球の資源を保護するため」とうたっており、厳格な菜食主義者向けというより、ブランドとして牛乳・乳製品の過剰消費による環境負荷低減を意識した商品と考えて良さそうだ。

植物由来の材料のみを使用したクリスマスケーキも

さらにクリスマス商品としても、PierreHerméや大手冷凍食品チェーンのピカールは牛乳・乳製品、卵などの動物性食材を一切使用しないヴィーガン仕様のケーキを発売した。

PierreHerméがクリスマス期間(12月19~25日)に限定発売したヴィーガン仕様のブッシュドノエル(250ユーロ)

スーパーマーケットから世界的ペストリーまで、プラントベースの商品は酪農・畜産が盛んなフランスでも注目を集めつつあるようだ。

さらに世界最大の料理学校ル・コルドン・ブルーのパリ本校は、2021年に健康やライフスタイルを尊重し、グルテンフリーやシュガーフリー、エッグフリーと合わせて動物性食材を植物性食材に置き換える製菓技術などを学ぶことができるプログラムを用意していることを公表している。

参照サイト:
Nouveauté : Diplôme de Pâtisserie Innovation et Santé

代替肉の開発・普及も進んでおり、フランスを含め欧米の動物性食品の消費量は今後減少傾向にあると予測される。現在の欧米諸国の乳・乳製品の消費量は日本の3倍以上であり、日本人が健康面や環境面で牛乳や乳製品を極端に避ける必要はなさそうだ。しかし味、価格、健康的かといった視点だけでなく、食事の選択場面でも地球への環境負荷や畜産動物に配慮するという消費者の新たな価値観は、今後日本の中でも広がり、プラントベースの商品の需要が高まることも考えられるだろう。(在フランス管理栄養士ライター 高城紗織)