旬の食材:サケ

1995.10.10 1号 13面

中国の人々は日本人のように薬を飲まない。病気になっても食養生して薬を避ける。特にお年寄りはこの傾向が強い。また中小都市では薬局を探してもみつからない。

古来から薬補不知食補という言葉があり、どんなよい薬でも、よい食事には及ばないという思想であり、中国の医学は治病より防病に特徴がある。この医食同源の思想は現在の中国でも支配的なものとして生き続けている。

すでに中国では約三千年前の殷の時代に、食に関する職制がみられた。第一位は医師と呼ばれる行政官。第二位が食医で皇帝の食事を管理していた医者を指す。その業務は栄養バランスや味を考えてのメニューづくりや、食事指導である。

第三位にランクされるのは疾医とよばれる現代の内科医、第四位は瘍医とよばれる現代の外科医で、第五位が獣医である。行政官を除くと食医が最高のランクで尊敬を集めたのである。

その食医が示した養生訓は次のようなものとして伝えられている。

(1)囚人面施=人のタイプに合せて食事をつくる。太った人には低カロリー食を

(2)因地制宣=地域や風土の差によって食事内容を調整する。寒地には暖食を

(3)五味相調=味をつくる五味(甘・酸・咸=塩・苔・辛)のバランスをよくして調和させる

(4)性味相勝=味の本質は持ち味を生かすことにあり、バランスよく配慮する

などがあげられ、、その究極は美味と同時に健康に資することが大切とされている。

特に食養生の特性として以類補類の思想が強くみられる。例えば増血や強肝のためにはレバー料理が用いられたり、胃病を治すには熊の胃が利用される。

そして食品をすべて陰陽に分け、陽の食品は温・熱・甘・辛・淡と、陰の食品は寒・涼・酸・苫・咸と分類する。これを病理に応用すると陽が勝てば陰に、陰が勝てば陽に逆転する。この絶妙なバランスの上に正しい治病法や長寿の秘訣がみられる。これが薬膳の根底に流れている思想である。

薬膳で、日本には良薬口に苦しで薬効が期待されるならば多少まずくても許され、薬はまずいものの認識がある。しかし中国ではたとえ薬効があっても口に苦しは許されない。口に旨しが最大の条件で、おいしく、しかも安く、薬効が高いことが必要で、薬材一つ一つの適産地が大切となる。

最もポピュラーな薬材の枸杞でも特産地は寧夏の中寧県産となる。その他の地では薬効が落ち、東京産の枸杞は薬材不適で単なる観賞用にすぎないとする厳しさである。

◆薬材レストラン事情

中国には数百年の伝統を誇る薬膳レストランがみられる。漢方薬専門の医師や薬剤師と組んでメニューを開発し、このアイテムも数百種に及ぶ。人民のための健康管理が主目的で、利益は第二義的。このため価格は比較的安く、有病治病・無病強身・延年益寿が主目的である。

成都同仁堂のメニューをみると

・玉竹心子…豚心臓と玉竹(筋肉の強化)

・妙香舌片…タン料理(不眠病によい)

・丁香鴨…ライラックと鴨(消化促進)

・黒芝麻免…黒ごま(心臓と利尿)

・虫草鴨子…冬虫夏草と鴨(肺と心臓)

・茯苓包子…夜苓まんじゅう(消化促進)

・銀耳鶉蛋…白きくらげと鶉卵(肺と心臓)

・貝母雪梨…貝母と果物(気管支と肺)

・天麻魚頭…天麻と魚の頭(神経衰弱)

・洋参五汁飲…五種漢方薬入り(扁桃腺)

など、色・香・味すべてよしである。使用する漢方薬剤をきくと、天麻・田七・茯苓・札仲・人参・当帰・枸杞・何首烏・川〓・山査・陳皮・龍のおとしご ほかとなる。

また北京の有名薬膳店の龍華のメニューは

・玄駒理…黒蟻だんご(健胃・強筋)

・参茸鹿鞭…人参と鹿のペニス(滋養・強精)

・花粉準酥…花粉クッキー(美容と防老)

・炸全〓…さそりの丸揚(強精と滋養)

・当帰風化…当帰(活血と止痛)

・哀芝士蟆…蛙の輸卵管(益精と潤肺)

・姜石猴頭…山伏芽(抗癌と防癌)

・八珍甲魚…すっばん(清熱と涼血)

・蜜践人参…人参の蜜銭(補肺と健脚)

・清蒸烏鶏…烏骨鶏むし(補血と強身)

など、皇帝の強精料理房として研究が進んでいた。

両レストランとも薬用酒の開発が進み、種々の試飲も可能である。

漢方薬材は三千種強みられ、うち三分の一が四川省で産出され成都がこの中心地、また河北省の安国が交通利便で集配地となり、何れも数百軒から成る薬材店が集中。

最近では漢方薬を利用して菓子・飲料・給食・加工食品の開発が広く中国にみられる。

特に西洋医学万能の中で副作用がなくおいしくしかも安価な薬膳料理は成長期待大である。

(食品評論家 太木光一)

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