おでんの栄養学 屋台歴7年の杉田儀一さん

1996.02.10 5号 10面

木枯らし吹きすさぶ通りの端、遠くの方からぼおっとした灯りが見え隠れ。近付けば、じんわり湯気が頬にしみる。この季節、おでんの屋台はお腹にも心にも温かい街角のファストフードだ。一個五〇円、七〇円というお手軽さはついでに懐にも、というべきか。昔からある存在だけれど、考えてみればこのメニュー、健康食志向が求められる現代で、かなり安心してお腹を満杯にしてもへっちゃらな一品だ。何たって主要メンバーは、旬の野菜にコンブ、大豆の加工品である厚揚げ、がんもどき、山芋のすり潰しをつなぎに使ったハンペンなど良質の魚の練り物といった面々。それをカロリー控え目料理法の定番、和風のスープ煮にしてあるのだから。

東京は世田谷上町。ちんちん電車、世田谷線のその脇で、「せんいの多いおでん」「カルシウムの多いおでん」のそれぞれを、屋台の横腹に貼り付けてあるおでん屋さんを発見した。

まるで馬かウサギが喜びそうな、皮をむいただけのニンジンも丸ごと1本入っている。「これは私のオリジナル。いまでは他の屋台もマネしているよ」と杉田さんは胸を張る。「キレイのためには便秘解消」をいつも心掛けている女子大生にとくに人気とか

地元・世田谷在住のおでん屋台のおじさん、杉田儀一さん。「この冬で屋台を出して7年目。5年前から“せんい”や“カルシウム”の説明を始めたんだよ。会話も弾むし、喜んでくれる」

昼時は近くの短大の前、夕方過ぎは銭湯の前が定位置。ただし銭湯が休みのきょう月曜日は駅前に出張する。お客は女子高生から大学生、お風呂で温まったばかりの家族連れ、酔いざましはおでんでしめたいサラリーマンまで

仕込みは自宅で。二リットルの空きペットボトル一五本にスープを詰めて家を出る。「スープのダシ? これは大変だよ、カツオダシにコンブダシ、煮干しも使うしね。あんまり言いたくないけれど……」と言いながら教えてくれた隠し味は「ニンニク」。ペットボトル一五本分のスープに房がいっぱいに詰まったまるまる二個が入っているという。これが秘密のポカポカの素

この冬短大生からもらった杉田さんの宝物。「いつもおいしいおでんをありがとう。寒いほど売れるけれど風邪をひかない程度に頑張って下さいね……」。手紙には、メッセージのほかに、学生の登校状況が分かるよう、定期試験の日程も添えられた

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