竹下大学著『日本の品種はすごい うまい植物をめぐる物語』中央公論新社刊

総合 新刊紹介 2020.01.10 11995号 07面

これからの日本の農業、食品業界を担う若い世代に対して役立つ内容にする意図もあったと著者。描いたのは、二つの果物、五つの野菜の268品種にまつわる新旧攻防のほか、在来種を守る取組み、ブリーダー(育種家)をはじめとした人物や企業の知る人ぞ知る普及への功績と労苦、害虫や病気から守る栽培技術の歩みなどだ。

33の品種に言及したジャガイモでは定番品種「男爵薯」に挑む新品種「きたかむい」との世代間競争を、53品種を取り上げたナシでは「長十郎」「二十世紀」「幸水」が時代をリードしてきた日本独自の品種改良の歴史を、リンゴの38品種では世界一の品種となった「ふじ」がそれまで農家の生産意欲をなえさせていた栽培の課題を克服するに至った青森の一生産者との出会いの物語をそれぞれつづった。

このほか物語には、日本の大豆生産を守った「エンレイ」をはじめとした大豆の50品種、根菜類で世界初のF1品種(一代限りの雑種)となった「早生大蕪」などカブの28品種、青首大根を全国区にした「耐病総太り」など大根の53品種、野生のまま和歌山県真妻村(現・印南町川又)で栽培が始まった料理人や食通が珍重する「真妻」などわさびの13品種が登場する。小林一茶の「せみ啼や/梨にかぶせる/紙袋」や正岡子規の「少しづゝ/洗ひ減らすや/かいわり菜」など情感を伝える俳句も引用し栽培技術や流通の広がりに言及、それらを食卓に映し出すTVCMや時には厳しく国の対応へもまなざしを向けるなど縦横無尽。

食品業界の中核団体・食品産業センターに現在勤務する著者は、観賞用の花を専門とするプロのブリーダー。「23年間開発競争の真っただ中にいた」という。北米の園芸産業の発展に貢献した品種を育成したブリーダーを表彰する全米セレクションズ・ブリーダーズカップの初代のただ一人の受賞者でもある。「改良品種の登場によって文字通り行方知れずとなり、気がつけば写真にその姿をとどめるだけの存在となっていた」と実物が絶え「歴史のひだに埋もれる」ことを痛感した経験から、「物語は残すことができる」と執筆した。

中央公論新社、初版刊行2019年12月18日、新書判、304ページ、900円(税別)。

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