新春特集第2部:業務用食品メーカー座談会 2020年外食市場の動向を占う

外食 特集 2020.01.03 11992号 07面

◆おいしさ・サービス・雰囲気に感動を

いよいよ2020年の幕開け。東京オリンピック・パラリンピック開催で、外食の盛り上がりも期待したいところだ。19年の外食市場、20年の外食動向の行方など、外食産業を業務用食品を通して支えている業務用食品メーカーに語ってもらった。(司会・文責=日食外食レストラン新聞編集部)

◆座談会出席者

○A氏(35歳) 人望厚くメーカー間のパイプ役。趣味はゴルフ。週末はカレー作りで、家族サービスを欠かさない。

○B氏(42歳) 現場経験豊富で皆が一目置く。趣味はゴルフ。A氏とは良きライバル。相撲で子どもとのスキンシップが日課。

○C氏(37歳) データを元に緻密な提案に定評。趣味はラーメン。毎週末のラーメン店のはしごは欠かせない。

○D氏(32歳) 誠実に足で稼ぐのがモットー。意外にも趣味はサーフィン。しかし、海から遠ざかっているのが最近の悩み。

*    *    *

●強み生かした開発を 売上げには簡便商品

–2019年の外食市場は、またどんな商品が売れたか。

A氏 公表データでは、外食市場は微増のようだが、そんな実感はない。業務用食品メーカーの商品の向け先は居酒屋などの外食、中食、コンビニエンスストア(CVS)、産業給食などとあるが、外食は特に良くない。毎年のように自然災害が起きているが、そういう災害があると消費は落ち込む。台風19号の影響は大きかった。また、人手不足でランチをやっていた居酒屋がランチを中止したりなどの例も増えている。

B氏 外食が落ちれば内食が増える。当社は、外食は厳しいが、中食、家庭用は良い。家庭で調理しないという風潮も底を打った感じで、やはり作りたてはおいしいという需要が戻っている感じがする。やはり内食の方が、コストが安い。ラグビーワールドカップ(W杯)をTVで観戦し、家で飲みながら食べるという流れになった。あと消費増税の影響も少しはあるのではないか。

C氏 B氏は、底を打ったと言われたが、家庭での「作らない化」はまだ進んでいると思う。当社では家庭用は簡便・オペレーション重視の商品が売れている。業務用も同様で、簡便・オペレーション重視の商品が売れている。

また、業務用食品メーカーは外食よりも中食にシフトしている。外食ではポータグルメという造語が生まれ、デリバリーが伸び、キッチンカーで本格的な食事を外で販売するような業態も生まれている。そんな中食と外食の垣根を越えた新たな市場にも目を向けている。

D氏 調味料を見ていると、基礎調味料は厳しい。そのため1本で味が決まる商品が家庭用、業務用ともに伸びている。中食・家庭用でしっかり差別化した商品をPRしていきたいと考えているのだがなかなか受け入れられづらい。

簡便なメニュー用調味料は低価格な商品から高品質な商品まで幅広いが、全体としては安価な商品に流れる傾向が強い。「調味料で価格を下げないとやっていけない」というお客さまからの声も強い。

–コスト競争はまだ厳しい。

A氏 基礎調味料は厳しくなっている。ドレッシング、たれ、つゆなどコストを重視するとどんどん簡便化した商品になっていく。メーカーらしさ、自社の強みを生かした商品を出したくても、市場に合わせていくとオペレーションが簡便化できる商品がないと売上げが維持できない。

C氏 原材料の高騰だけでなく、今は物流の問題が大きい。お客さまもそれは理解していて、少しでも仕入れ値を下げたいという強い要望がある。

–物流費を下げるためには高価な商品を運んだ方が、物流費比率は下がると思うが。

A氏 メーカーも高い商品を売りたい。しかし、物流コストは歯止めがきかず待ったなしなので、仕入れを削るしかないとなってしまっている。

C氏 メーカーは、安売りだけでなく、差別化できる商品を開発していかないと大変なことになる。

–簡便性のニーズは強い。

A氏 特に居酒屋系では強い。人も足りないし、外国人籍従業員も増えている。

C氏 最近では、商品の後ろに説明しているレシピを「英語表記できないか」といわれたりする。

B氏 簡便性を求めて人手不足に対応していく店舗は、先々厳しくなるのではないか。手作りのおいしさにこだわり、その中でいかに手際よく提供できる店が繁盛していく。簡便性の商品で作った料理もおいしいが、もう一度食べたいというリピーターは増えないのでは。

A氏 価値を下げると惣菜に近づいていく。

B氏 惣菜と外食の価格は違う。外食は、特別感がないといけない。

D氏 メーカーとしては、良い商品をしっかり作ってもらいながら、お店で素材の味をしっかり生かしてお客さまに喜ばれるお店になってほしいと思っている。

物流が発達して、全国各地から良い素材が入手できる時代になっている。素材の味を生かした料理を提供してほしいが、人手不足は簡単には解決しない。どこにしっかりと手を入れて、どこの手を抜くかのバランスを考えていかなければいけない。

●立ち寄り気軽な店人気 健康志向ジワジワ浸透

–はやっている店の特徴は。

C氏 「意味消費」のような、このメニューを食べるとこんな効能があるとか、東日本大震災以降では、復興支援として、例えば岩手県産の素材を使ったメニューを食べることで岩手県に貢献している、というような意味のあるメニューに消費者はくすぐられる。

また、フォトジェニックよりもシンプルな昔ながらのオムライス、昔ながらのナポリタンが売れてきている気がする。

A氏 増えているのは、焼鳥屋など初期投資が少ない業態。はやっているのはわかりやすい業態。例えば、ちょい飲みのように、お値打ち価格で少しだけ飲んでいってください、といったわかりやすいコンセプトの店舗、メニューに人が引きつけられている気がする。

D氏 大阪へ行ったら少し安めの立ち飲み業態がにぎわっていた。土地柄もあると思うが立地・雰囲気を含め気軽に立ち寄れるお店というのが人気だ。

B氏 「この一品」という名物料理があるお店。その名物料理に引かれてお客さまが集まる。

自動車で走っていてランチ帯以外のずれた時間にはやっている店舗には立ち寄り、「なんで、この時間にこんなに混んでいるのかな」と調べたりするが、ボリューミーなお店が多い気がする。

–「タピオカ」などフォトジェニックなメニューがはやっているが。今後、はやりそうなキーワードは。

A氏 続いていると感じるのはシビ辛系。

B氏 鶏の唐揚げが永遠のナンバーワン。バリエーションも豊富で、鶏の唐揚げに勝てる料理はない。コストも安く、盛れるから見栄えも良い。

–店舗にとっても利益メニューだ。

B氏 他業態から唐揚げ業態に方向転換しているチェーンもある。

–外食をけん引するのは女性といわれているが、その辺りは。

B氏 共働きが当たり前になり、働く女性が増えたことが大きい。それと女性的と思われるメニューも男性も好んで食べるようになっている。

C氏 女性視点だと健康を訴求した商品がジワジワ伸びている。糖質オフなどのメニューはファミレスでも導入され始めており、見逃せないキーワードだ。

–インバウンド客(訪日外国人観光客)への対応は。

D氏 エリアや国籍によって違うだろうがホテルに泊まっても、朝食以外はすべてCVSで済ますという話もよく聞く。外食への恩恵はよく見えない。

C氏 日本食を楽しみたいというインバウンド客は増えている。その中でも麺メニューは手軽なため人気だ。特に一番人気はラーメンだ。ホテルのビュッフェでも、自分でラーメンを作って食べたいというニーズが増えている。そういった作るコトを含めた「コト消費」の提案も必要では。

●食文化は地域のもの 訪日客はおもてなしで

–オリンピック・パラリンピックが開催される今年への期待は。

A氏 期待はしているが、それが売上げにつながるかは別の問題。業務用食品卸とオリンピックに向けたメニュー提案を居酒屋にしたが、ほとんど関心はないようだった。

おでんが売りの居酒屋が、おでんをインバウンド客に売りたいという話はあるが、新たにメニューを導入してというのはあまり聞かない。

しかし、業務用食品卸とメーカー間では「何かしないといけない」という思いは強くある。けれどもどこを向いて提案するのか、ゴルフ場なのか、居酒屋なのかという話までは実際に進んでいない。これは19年のラグビーW杯も同じだった。しかし、どれだけ考えても無理なこじつけをしないと成り立たない。

C氏 事業所給食では、世界各国のメニューを出したいといった話はきている。学校給食も同様の話はある。

インバウンド客が増えることは間違いないので、日本の外食のおいしさ・サービス・雰囲気に感動してもらってもう一度来たいと思われることが大切。それがないと日本の人口は減っていくだけで、外食の消費は落ちる。

–惣菜向けは。

D氏 量販店からはまったく聞かない。わずか1ヵ月間のためにメニューを変えることは考えていないようだ。しかし、外食産業に関わる人は全員、盛り上がってほしいし、それに乗っかりたいという思いは強い。

B氏 外食も中食もオリンピックに頼るべきではない。大体の人はテレビ観戦で内食の方が恩恵を受けるだろう。

食はその地域に住んでいる人のためのもの。住んでいる常連客が喜ぶ食を提供していくことが大切。インバウンド客に気持ちを向けるのは間違い。何も寄せていく必要はない。毎日食べに来る人を大切にすべき。

A氏 確かに日本の食文化を楽しみに来るわけだから、あえて料理で寄せていく必要はない。もちろんおもてなしなどのサービスや雰囲気をインバウンド客向けには重視すべきでは。

–長時間ありがとうございました。

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