東京2020大会 食品業界、物流BCPの策定急務 首都圏の長期交通規制で

卸・商社 ニュース 2019.11.29 11977号 01面

 約8ヵ月後に迫った東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の開催に向け、食品業界の物流対策が急がれる局面となってきた。東京都や東京2020大会組織委員会が期間中の交通量3割削減などを企業に協力要請しているほか、競技場周辺では長期間にわたって大規模な交通規制が敷かれるため、平常時と大幅に異なる物流対応が迫られる。企業は円滑な商品供給や販売を行うために、取引先や物流事業者などと連携した東京2020大会用のBCP(事業継続計画)を早期に策定する必要がある。(篠田博一)

 東京2020大会が開催される来年7~9月(オリンピック7月24日~8月9日、パラリンピック8月25日~9月6日)は選手や関係者、観客などの利用によって都内の交通量が激増し、首都高速道路では1日に約7万台もの車両が増えると見られている。

 仮に対策を施さなければ首都高や都心に向かう一般道の渋滞が約2倍に悪化すると予測され、物流が広範囲にわたって機能不全を起こす可能性が高い。開催期間が夏場の繁忙期とも重なるため、食品物流では卸がメーカーから予定通りに商品調達できない、小売業へ納品できないといった深刻な事態の発生も考えられる。

 このため東京都と国、大会組織委は大会開催時の交通量の抑制や分散、平準化を行う「交通需要マネジメント(TDM)」を推進。物流に関しては首都高や重点取組み地区の交通量を平時より30%、都内広域の一般道路では10%削減などの具体的な目標を立て、円滑な大会運営と経済活動維持の両立を目指している。

 大会開催まで8ヵ月を切り、今月半ばには関係省庁や大会組織委が連名で発・着荷主や物流事業者、業界団体などへ協力要請文書(「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会期間中の物流に係るご協力のお願い」)を発信したのを受け、食品業界でも東京2020大会へ向けた物流対策を本格化する機運が高まってきた。

 メーカーではすでに味の素社やキユーピー、アサヒビールなどの大手NB、小売業ではセブンイレブンが物流抑制へ向けた具体的プランをTDMプロジェクトで公表。納品リードタイムの延長や検品簡素化、道路混雑のピーク時間を避けた早朝・夜間への配送切り替えなどで本番へ準備を進め、その手法や成果についてはTDMの協力企業と共有している。

 ●26競技場20エリア 日食協が全容整理

 卸業界では日本加工食品卸協会(日食協)が対応を加速。このほど東京都が交通規制の全容を情報公開したのを受け、首都圏の26大会競技場・20エリアに及ぶ膨大かつ複雑な資料を業界向けに再編集・整理して協会ホームページで公開した。

 日食協はこれまでも正月やゴールデンウイークなど大型連休時のサプライチェーンの機能維持へ製配販に働き掛けを行ってきたが、東京2020大会はそれらと比較できない約2ヵ月間に及ぶ長期間のイレギュラーな対応が迫られると強く懸念している。

 加えて、「競技場の集中する首都圏臨海部にはメーカーの冷凍や冷蔵拠点が数多く存在する上、都内には路面店の食品スーパーやコンビニエンスストアも多い。継続的な配送を行うには、早急かつ入念な準備が必要」(日食協・奥山則康専務理事)と警鐘を鳴らし、卸各社がメーカー・小売業と商品仕入れや店舗納品に関わるBCPを策定するための資料として、業界へ幅広く利用を呼び掛けていく。

 東京2020大会を契機に行政と企業の連携による物流オペレーション合理化の動きが広まることは、人手不足にあえぐ食品流通にとって新たな転機となる可能性もある。この試みを20年以降の持続可能なサプライチェーン実現へのレガシーとできるか、食品業界を挙げての正念場だ。

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