外食の潮流を読む(69)物語コーポレーションを支える、「理念経営」は業界常識を変える

2021.03.01 505号 11面

 物語コーポレーションは「理念経営」を浸透させている。「理念経営」が目指すものは「全員が生き生きと働き、成長期にも危機にも強い会社」である。従業員それぞれの目的と価値観を共有して、「もっとやろう」と切磋琢磨する社風をもたらす。

 1990年代の後半、同社では「Smile&Sexy」という経営理念を打ち立てた。この文言は平易ではあるものの「Sexy」とは会社を象徴するものとしては斬新すぎるといえないか。当時の小林佳雄代表に対して筆者がこのように質問したところ、小林代表は「人々はいくつになっても光り輝く存在であることを忘れてはいけない。そのような意味を込めてつけた」と語った。その後、同社はファミリーをターゲットとした業態のFC展開による多店化路線に転換した。そして著しく速いスピードで500店舗500億円の体制を築き上げた。FCが増えることによってバラバラになりがちなものを理念経営が強く束ねたのであろう。

 世の中はコロナ禍の第3波に見舞われ、飲食業界は大きな影響を被っているが、同社の業績は好調だ。主力事業の「焼肉部門」は、2020年11月期の対前年同期比売上高が120.4%。店舗数は229店舗で、うちFCは92店舗である。この強さとは何だろう。

 同社は9月24日付で加藤央之(ひさゆき)氏が代表取締役社長に就任した。加藤氏は1986年生まれで同社のプロパー。34歳という若さでの代表就任は、異例の抜擢という印象を受ける。しかしながら、加藤氏は早期より営業、開発部門の重責を担ってきた。社内における加藤氏の日頃の存在感から、代表就任が内定したとき、社内では当然のことと納得されていたようだ。

 筆者は社長に就任したばかりの加藤氏に同社の強さの理由を尋ねた。すると加藤氏はこのようなことを語った。「外食がシュリンクしている中で、最後に残るのは日曜日のファミリーの外食でしょう。そして、飲食店は業種の戦いになっていきます。『何を食べに行こうか』とお客さまが考えたときに、マーケットの大きい強い業種に気が向きます。それが『焼肉』や『寿司』ということになるでしょう。では、郊外で焼肉屋をやっていると勝てるのか、というとそうではありません。選ばれるためには『地域一番店』である必要があります」。

 「地域一番店」になるためのポイントは、まず地域の「一番立地」にあること。「大胆な看板」によって店の存在が目立つこと。さらに「フォーマットの力」と「人の力」があり、それが融合していること。その店に行って「笑顔」になり「元気」になれること。ここで述べた「フォーマットの力」の事例として、同社の強いブランド「焼肉きんぐ」の「100分2980円(税抜き)食べ放題」を挙げてくれた。

 加藤氏の実に分かりやすい解説から、「理念経営」の強さを感じ取った。この先、生産性改革が行われ、大きな企業統合が展開していくことだろう。同社はこれからのフードサービス業界の鍵を握る存在である。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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