センティナリアン訪問記 百歳人かく語りき:白土小治郎さん・市岡ヤヱさん

2005.01.10 114号 8面

長生きには家系もあるというが、兄妹とも100歳超。2人合わせて205歳とは…。そんな元気な兄妹が暮らしている北海道は道東の網走支庁管内・丸瀬布町の養護老人ホーム『緑の園』を訪ねた。2005年新年、2人のお話から開運をいただこう。

小治郎さんはこの園内の植物園を散策するのが好き。2人仲良く、大相撲の星取も競い合う。ヤヱさんはカラオケが趣味。一八番は『祝い船』『貫太郎月夜』『夫婦坂』。お化粧もしてないのに、口紅をさしているような紅い口元で歌う

小治郎さん、ヤヱさんは現在兄妹で同じ部屋に暮らしている。約30年前の同ホーム開園と同時にお互いの妻・夫とともに入居、連れ合いを見送ってからはこの生活スタイルとなった。30年ともなればもう自分の家も同然。穏やかに月日を重ね、ともに100歳を超えた。

ともに道南の伊達市の生まれ。8人兄弟の3、4番目。「先祖は伊達さんと一緒にこの地を開きました。父は農家。水田に雑穀、いろいろな物を作ってましたね」と、ヤヱさんが兄妹を代表して話す。祖父は仙台から伊達藩の家臣としてやってきたという。

小治郎さんは若い頃にこの木材の町、丸瀬布町に移り住んだ。いまこの町の名物、北海道遺産である「雨宮21号」は観光用だが、れっきとした蒸気機関車。その昔、山から木を切り出して駅まで運んだ林道列車の面影を残している。森林の切り出しや運搬、木工に従事する男たちが多い町で、小治郎さんがしていた職業は馬喰(ばくろう)だ。

切り出した木を運ぶ交通手段は馬。その売買をする馬喰は重要な仕事だ。馬を見る目、人を見る目。この馬はどんな仕事に向くか、農耕馬なのか運搬用か。小治郎さんの目の中には、確かにお宝を長いこと見定めてきた勘所が宿っているようだ。

「映画に出てくるように、座布団の中で手で数字をにぎって、相手と値段を交渉したんですか」。記者の質問に、小治郎さんはこっくりとうなずいた。「一生懸命働いた」という。

ヤヱさんは16歳まで伊達市にいて、それからやはり網走支所管内の遠軽町に出て22歳で結婚した。

「主人は木材の職人でした。曲げ輪(蒸籠)を作ってましたね」。

戦時中は夫と2人の子供とともに、樺太(サハリン)でも暮らしている。

「敷香(しすか)という町。いい所でしたよ。お魚、特にカレイなんて肉厚で素晴らしかった。刺身もね。あとニシンがいっぱい取れた」。

終戦で引き揚げてからは、また遠軽町の姉の家に身を寄せた。その後、質屋を任されることになる。

「2人の雇い主に雇われて、質流れ品を販売する小さい店を借りて作ったの。お二人の名字から(う)(み)の印と、値段を考えてつけてね。いまみたいに計算機はないから4つ玉のソロバンで。みんなに可愛がってもらいました。ありがたいですよ」。

質流れ品だから、財産になるようないい物がある。古い物ばかりでなく新しい物も安く売ったので、店は賑わった。

「自動巻きの時計も使い方をすっかり覚えて、お客さんがいらしたら、これをこうしてこうなると説明して。ズボンはすぐに履いていきたいという時は、自分で裾を上げてね。喜ばれました」。

感謝もいっぱいされたが、苦労もした。「服の中に隠してズボンだけ盗んでいく人とか。ちょっと着てみたいと言ってそのまま逃げて行ってしまう人とか。それで私も考えて、ズボンを糸で上着と縫いつけておいたり。え、頭がいい? そんな訳じゃないですよ。いい物をお預かりして1人留守番しているのだから、なくなったら私の責任。私を使ってくれたんだからね」。

そんなヤヱさんを思いやって、2人の雇い主は毎日金庫から50円ずつ、両方で100円を集めて積み立ててくれた。「質屋さんいい人でね。30年働いてやめる時、積み立てを退職金としてくれたの。私はホントに幸せだった。いろいろしてもらって」。

考えてみたらつまりこの兄妹、2人とも人と物を見る達人だった。

「どうしたら兄妹でそんな長生きできますかと、どなたにも聞かれますが、自分で努力したからということもないし(笑)。分からないんじゃないかしら。小さい頃食べていたものねぇ。農家だから兄弟みんなで麦ご飯を食べてましたね」とヤヱさん。

なんとこの兄妹には、もう1人すぐにも“100歳ブラザーズ”に加わるだろう弟さんがいるのだ。遠軽町で息子と暮らしている弟さんは「2つか3つ下だったから、99くらいになるんじゃないかしら」。

「99くらいの弟」、なんとも言えないのんびりとしたいい方に、脱帽だ。

「ご兄弟とも心がおおらかですよ。食べ物も何でも食べますしね」と「緑の園」の若杉力施設長は、2人の長寿の秘密を話す。春から縁起のいい笑顔にあやかって、こちらもおおらかで穏やかな毎日を心に誓った。

購読プランはこちら

非会員の方はこちら

続きを読む

会員の方はこちら