海外通信 外食ビジネスの新発想(26)復活するウイスキー 増えつつある新興都市型蒸留所
ケンタッキー州シェルビービルにあるブレイト・ディスティリング(Bulleit Distilling)は、2017年創業の新興蒸留所。ウイスキーのオリジナルカクテルを併設されたバーで楽しめる
ブレイトのビジターセンターにあるショップ。ウイスキー関連のグッズが豊富にラインアップされている
2012年創業のラビット・ホール(Rabbit Hole)。ケンタッキー州ルイズビルにある都市型の新興蒸留所。ジェイムズ・ビアード財団のオフィシャル・ウイスキーにも指定されている。
「ラビット・ホール」の創始者、カヴェイ・ザマニアン
ウイスキーのテイスティング (C)Ketis Creative
(C)Andrew Hyslop
(C)Tabitha Booth
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●新しい飲み方さまざま
アメリカ史と密接な関わりがあり、アメリカ文化の一部ともいえるウイスキー。長年、人気が低迷していたが、新しくよみがえり始めた。
その昔、農家は余った穀物を使ってウイスキーを造った。初代大統領ジョージ・ワシントンもその一人だ。当時はライ麦を主な材料にウイスキーを製造していたが、課税を逃れるために南部に移った蒸留者たちが、南部での生産に適していたトウモロコシを使ってウイスキーを造り出した。これがアメリカン・ウイスキー、バーボンの発祥だ。
やがて禁酒法が制定され、1920年から13年間、アルコール飲料の製造・販売・輸送などが禁止され、ウイスキー蒸留所は致命的な打撃を受け、廃業に追い込まれる一方、マフィアが密造酒で大いに潤う。この時代、まずい密造酒を飲むためにカクテルが生まれたという。
ちなみに、バーボンの必要条件は三つ。
(1)トウモロコシが原料の51%以上を占めること
(2)中を焦がした、新しいオーク樽で熟成すること
(3)アメリカ国内で造られること
(1)(2)を満たしていても、アメリカ国外で造られれば、バーボンとは呼べない。一方、テネシー・ウイスキーとは、バーボンの定義に加えて、蒸留した原酒をカエデの炭で濾(こ)してから熟成したもののことを呼ぶ。有名な「ジャック・ダニエル」はテネシー・ウイスキー、「ジム・ビーム」はバーボンだ。
さて、アメリカン・ウイスキー(バーボン、テネシー・ウイスキー)は、十数年前から国内の需要がめきめきと増え始め、2002年の生産高は130万ケース(1ケース9・計算)にすぎなかったが、18年には2450万ケースに増え、売上高は年間36億$に達している。この需要の伸びにはいろいろな背景があるが、その一つはカクテル文化が芽生えたこと。まずはサンフランシスコで生まれたカクテル文化は、ニューヨークとシカゴに飛び火し、やがて各地に伝播して「マンハッタン」「オールド・ファッションド」「ミント・ジュレップ」「ハイボール」などのクラシックなカクテルが再発見された。ほとんど絶滅しかけていたライ・ウイスキーも、おかげで復活。
また、「少しだけ責任を持って飲むこと」が社会的に重要視されてきた背景もある。少量をグラスに入れ、ゆっくりたしなむウイスキーは、このトレンドに適している。少しであれば良いものを、ということで、高品質のものの伸びが特に高い。
各地に新規のウイスキー蒸留所ができている一方、老舗は生産設備を増補し、ワイナリーのようにバーやショップ、レストランを新設して拡充している。テイスティングやカクテル教室、ツアーも盛んに行われている。
ウイスキーの新しい飲み方は、フード・ペアリング。ウイスキーは、食前酒として、または余韻を楽しむための食後酒としてぴったりだが、それぞれのウイスキーの個性と相性のよい食べ物と組み合わせて楽しむこともできる。例えば、バーボンは甘くなめらかでバニラ風味がするので、デザートに合う。しっかり味わってみると、他にいろいろな風味を楽しむことができる。黒コショウ風味がすれば、元来黒コショウを使う食材を類推し、その食材を利用した料理をペアリングするのだ。シナモン風味があれば、シナモンを使った食材を材料にペアリングする。
再発見されたウイスキー。多岐に楽しみ方があり、これからも伸びが期待されている。
●正しいウイスキーの飲み方
(1)グラスを持ち上げて琥珀色を楽しむ。色が濃いとより複雑な味に
(2)鼻を近づけ、口を軽く開けて香りをゆっくり吸い込む
(3)少しだけ口に含み、舌全体に広げて味覚を楽しむ
(4)飲んだ後の余韻をじっくり楽しむ
(5)水を1、2滴垂らしてから再び味わう。水分が加わることでウイスキーが花開き、香りと味覚がより広がる