海外通信 外食ビジネスの新発想(71)旭酒造の本格醸造所オープン

2023.12.04 538号 13面
ニューヨーク州ハイドパークに80億円をかけてオープンしたばかりの旭酒造の酒造所。日本と同様に、山田錦のみ、純米大吟醸のみでアメリカでの酒造りをしていく。テイスティングルームもオープン、酒蔵見学も始めた

ニューヨーク州ハイドパークに80億円をかけてオープンしたばかりの旭酒造の酒造所。日本と同様に、山田錦のみ、純米大吟醸のみでアメリカでの酒造りをしていく。テイスティングルームもオープン、酒蔵見学も始めた

「Dassai Blue」の名は、「青は藍より出でて、藍より青し」が由来という。アメリカ最高峰の料理学校、CIAと提携し、日本酒のカリキュラム、認定プログラム、ワークショップ、特別イベント、試飲などを試みていく

「Dassai Blue」の名は、「青は藍より出でて、藍より青し」が由来という。アメリカ最高峰の料理学校、CIAと提携し、日本酒のカリキュラム、認定プログラム、ワークショップ、特別イベント、試飲などを試みていく

アーカンソー州ホットスプリングズにできた「オリガミ酒」の酒造施設。最初のテストバッチは22年10月に製造され、23年に販売を開始。アメリカ全土を視野に入れ、将来125万Lを生産する計画だ。origamisake.coから

アーカンソー州ホットスプリングズにできた「オリガミ酒」の酒造施設。最初のテストバッチは22年10月に製造され、23年に販売を開始。アメリカ全土を視野に入れ、将来125万Lを生産する計画だ。origamisake.coから

日本酒パブ「moto-i」の酒カクテル。カクテルのほか、日本酒フライト(4~5種類を少しずつ味わえる)などもサーブしている。www.moto-i.comから

日本酒パブ「moto-i」の酒カクテル。カクテルのほか、日本酒フライト(4~5種類を少しずつ味わえる)などもサーブしている。www.moto-i.comから

ペンシルバニア州唯一の小さな酒醸造所「サンゴ蔵(SangoKura)」の酒各銘柄。ローカルなアーティストの手掛けたレトロなラベルがユニーク。sangokurasake.comから

ペンシルバニア州唯一の小さな酒醸造所「サンゴ蔵(SangoKura)」の酒各銘柄。ローカルなアーティストの手掛けたレトロなラベルがユニーク。sangokurasake.comから

 ●アメリカの日本酒ブーム クラフト酒醸造所が全米各地に

 2023年9月、ニューヨーク州ハイドパークに「獺祭」で知られる旭酒造の酒造所がオープンした。アメリカ産のコメ(アーカンソー州産の山田錦)とおいしいことで名高いニューヨーク州の水(少しミネラルが多めだが、発酵は進みやすいという)を使い、アメリカ向けブランド、「Dassai Blue(獺祭ブルー)」を立ち上げ、醸造する。また、近隣にある有名料理学校「カリナリー・インスティテュート・オブ・アメリカ(CIA)」と協力して、日本酒についての知識、認知向上を目指し、酒文化についても伝承していきたいという。

 アメリカの日本酒消費量はコンスタントに伸びてきた。22年、日本酒の輸入量はアメリカが1位。アメリカ国内での生産も増加してきている。アメリカでの酒造りは、1979年の大関をはじめとして、宝酒造(83年)、月桂冠(89年)などが相次いで酒造所を開設したことに始まる。

 桃川が合弁会社をオレゴン州で立ち上げ、酒造りを始めたのは97年のこと(11年、桃川の持ち株を白鶴酒造が買収し、SakeOneとなって白鶴のグループ会社となる)。クラフト日本酒メーカーとして、今では「Momokawa」(吟醸酒)、「g」(原酒)、「Moonstone」(フレーバー酒)、「Naginata」(純米大吟醸酒)、「Yomi」(缶入り)という5つの銘柄を展開している。

 近年、日本酒ブームに乗って、アメリカのクラフト酒を造ろうという野心を持ったアメリカ人の杜氏たちも、各地で酒造所を開設し始めた。メイン州からハワイ州に至るまで、現在では各地に約20ほどの酒造所がある。実際には、地元のごく小さな酒造所を入れると、もっと数が増えると推測される。

 18年に共同創業者のブライアン・ポーレンとブランドン・ドーガンがニューヨークのブルックリンにオープンした「ブルックリン蔵(Brooklyn Kura)」は、カリフォルニアとアーカンソー産のコメ、ニューヨークの水道水(優れた水として知られている)と自家製の麹でクラフト酒を造っている。23年秋、約1858平方mのタップルームと製造施設を新設し、醸造能力を2倍以上に拡大。ブルックリン蔵酒研究センターのデビューを記念して、対面とオンラインによる定期的な教育プログラムを提供する予定だ。

 アメリカのコメどころ、アーカンソー州に初めてできた「オリガミ酒(Origami Sake)」は、同州のコメと、山から流れる質のいい水、太陽光エネルギーを使って、サステイナブルに80万L生産できる酒造所をオープンしたばかりだ。創業者のベン・ベルは、酒造りの技術を完成させるために、日本での修業を含め15年を費やしている。大都会が近くになく人口の少ない同州では、地元の需要だけを見込んでいたのでは無理があるため、全国展開する大手スーパーやレストランチェーンの需要をも満たせるよう、大きな醸造施設を造ったという。

 地元層だけを狙ったごく小さな酒造所もある。ペンシルバニア唯一の「サンゴ蔵(Sango Kura)」がそれだ。デラウェア・ウォーター・ギャップという人口わずか約700人という小さな町にあり、オーナー兼醸造責任者のジェイ・クーパーがここで自家製の酒を造り、自ら経営する居酒屋で提供している。

 また、ミネソタ州ミネアポリスの酒造パブ「moto-i」では、杜氏のブレイク・リチャードソンと酒造責任者のニック・ローリーが手造りした生酒をドラフトで提供している。

 ナッシュビルで、サンディエゴで、サンフランシスコで、デンバーで、レキシントンで、アメリカ人の杜氏たちは、ドライホッピングした日本酒や果実フレーバーを付けた酒など、従来の伝統にとらわれない新しい日本酒にも挑戦している。

 とはいえ、日本酒はまだアメリカの年間アルコール消費額の0.2%にすぎない。この数字を今後どうやって上げていくのか。国内での生産・供給が伸びる中、各醸造所は切磋琢磨しながら市場拡大を目指していかねばならない。

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