外食の潮流を読む(64)コロナ禍でEC商品を開発、販促などをSNSで行い絆を深める

2020.10.05 500号 11面

 「日本一おいしいミートソース」という商品がある。これはイタリアンイノベーションクッチーナ(本社=東京都渋谷区、代表=四家公明)が展開しているカジュアルイタリアンの「トスカーナ」や、イタリアン酒場「東京酒場」などの13店舗でメニュー化しているものだ。冗談じみたネーミングだが、外食に詳しい人にはクオリティーの高いことでよく知られている。

 この度のコロナ禍で多くの飲食店はテイクアウト、デリバリーを手掛け、さらにEC(通信販売)を始めたところもある。「日本一おいしいミートソース」も瓶詰商品としてECで流通を開始、店に食事に来るお客の土産品にもなった。

 同社代表の四家公明氏はスパゲティ専門の名店で修業、1992年9月に26歳で独立し、「とすかーな武蔵小山総本店」をオープン。たちまち評判のパスタ専門店となった。

 ミートソースを「名物」にしたのは、99年5月にオープンした代々木店から。「ここの店のミートソースは日本一おいしいね」と言ってくれるお客がたくさんいたことから、店頭の看板でこの文言で宣伝したところ、どんどんお客が来店するようになった。「名前に恥じない商品にしよう」と原価を気にすることなく商品を磨き続けた。

 こうして圧倒的な人気を博していくが、テイクアウトを求めるお客も増えたことから、自家製の生パスタをビニール袋に入れ、パックに入れたミートソースをセットにして手提げ袋に入れて販売していた。その後、四家氏は「ミートソースを瓶詰にすると、営業時間中にパックに入れる作業はなくなる」ということをひらめいた。

 そしてコロナ禍がやってきた。全店舗を休業したが、瓶詰の作業を神谷町店で4月10日から行い、四家氏が自身のフェイスブックで告知をしたところ注文が殺到。6月末には累計1000食を販売した。

 同社の料理はすべて無化調。浅く調理したミートソースを瓶に詰めてから1時間煮沸することで、賞味期限は常温で1年間となっている。3人前のミートソースが入っていて1瓶1600円。この瓶詰1個、自家製生パスタ3食分、調味バター3食分、「おいしく作るためのレシピ」1枚が2800円のセットになっている。

 ラベルのデザインはクラウドソーシング仕事依頼サイトを活用し、5万4000円で出来上がった。また、試作のデザインを比較できるように、いくつかをフェイスブックに投稿してはそれを見ている人に意見を求めた。ファンにとっては完成することへの期待感が高まっていった。

 そして、ECが開始されてから、これを購入して自宅で作って食べたファンからは感動にあふれた画像と文言の投稿がフェイスブックで連日のように展開された。

 ここまで読んでお気づきのとおり、同商品の告知や販促はすべてSNSで賄っている。ここで生まれたコアなファンは、これから実店舗も支えていくことであろう。

 (フードフォーラム代表・千葉哲幸)

 ◆ちば・てつゆき=柴田書店「月刊食堂」、商業界「飲食店経営」の元編集長。現在、フードサービス・ジャーナリストとして、取材・執筆・セミナー活動を展開。

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