特集・デリバリーピザ 地域ルポ=長野県大町市「コアラのピッツア」

1995.06.30 79号 22面

「ろばのパン」は、ある年代にとって郷愁を感じさせる言葉だが、この現代版ともいうべき「コアラのピッツア」が、長野県大町市内に現れ子供たちの人気を呼んでいる。

郵便配達車を改造したコアラのピッツアは、昨年7月から走り出した。

このピザ移動販売をFC展開する母体になるのがPEN・システム(長野県大町市大町、0261・23・6723)。八年前、各都道府県に身障者センターが設立され、大手企業が参入して軌道に乗るところまで行きながら、諸般の事情により九州にある一つを残し、すべて組織としては消え去っていった。

「身障者も健常者と同じに働きたいという気持ちを汲み、ここ長野で何か一つの形として示し、この運動を全国に波及させたい」(笠井孝一代表)として、まずトマトの有機栽培など野菜づくりを始めた。

PEN・システムでは、笠井氏のコック歴二六年から得たノウハウを生かし、海や山などリゾート地に合った料理メニューをシステム化し、センターでできた野菜を売り込む際のソフトサービスにしたいという。

「地元からは土地提供者も出ており、これから本格展開をしたい。身障者が畑を耕し、食材を提供するカタチを長野を皮切りに全国へ広げたい」。ピザFC展開も、全国各地にこの運動の趣旨を認知させようとする働きかけの一環でもある。

こうした運動趣旨に賛同し、昨年7月、二ヵ月の準備期間の後、コアラのピッツアをスタートさせたのが、百瀬伸二郎さんと奥さんの広子さん。

百瀬さんは脱サラ後、そば屋を開業する予定だったが、店舗を構えた待ちの商売より客のところへ出掛けて売り込む移動式店舗は、「日本ではまだないし、地元でのピザ認知度は低い」と見て、あえて出張販売方式の道をとった。

車の改造に四〇〇万円、平釜代のほかは、売上げの三〇%が食材費、一〇%がパッケージなどの経費。燃料は、地元特産のリンゴの枝木を使った薪である。

販売地点を市内スーパー駐車場の一角に置いたり、郊外農村にも出向く。

スーパー内では、場所代として一〇~一三%を払う。

前日仕込んだ生地は、一玉一二〇gずつに分け、ほかの食材と共に冷蔵庫に入れ移動する。

スーパーの開・閉店時間に合わせての営業時間。朝6時半に家を出て夕方7時までが労働時間だ。

メニューはクリスピーなイタリアンのミックス一品で一〇〇〇円。まず注文を受けると生地を二四センチメートルのドウに仕上げ、クリスピーさを味わえるようドーナツ状にトッピングのエビ、ベーコン、イカ、玉ネギ、ピーマン、チーズを乗せ、トマトソースを掛け、オレガノ、バジルを乗せ、さらにトマトソースを掛け釜に入れる。約一〇分後には焼き上がり、客の手に渡る。

「薪で焼くと火力の強さ、香ばしさとも優れているが」より合理化を図って近く電化装置を搭載した車に替える。

屋外での立ち仕事のため、天候により売上げ、労働環境とも厳しいときもあるが、「商売として受け止め覚悟しているので気にならない。むしろいろいろな人と知り合え、顔なじみとなり話せることが嬉しい」(広子さん)と明るい笑顔。一日平均四〇~五〇枚を焼く。

「今の一台が二〇台ぐらいになればスケールメリットが生かせ、食材費も安くなる」(笠井氏)。この食材売上げが身障者センターへ還元されるわけだ。

まだスタートの緒に着いたばかり。これからどう裾野を広げて行くか注目される。

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