海外通信 外食ビジネスの新発想(31)新型コロナにどう立ち向かうか アメリカ外食産業の対応<2>

2020.07.06 497号 13面
定番のベーガン寿司もテイクアウト、デリバリーを続けている

定番のベーガン寿司もテイクアウト、デリバリーを続けている

新型コロナ対策のデリバリー用に開発した新メニューの数々。外出自粛で自炊を余儀なくされている人々も、家にいながらレストランの食事を楽しむことができる

新型コロナ対策のデリバリー用に開発した新メニューの数々。外出自粛で自炊を余儀なくされている人々も、家にいながらレストランの食事を楽しむことができる

温めるだけですぐに食べられる1人前用のデリバリー。ピタ、ローズマリー・ガーリック・ブレッド、タロイモのチップスの中から希望したものを付ける

温めるだけですぐに食べられる1人前用のデリバリー。ピタ、ローズマリー・ガーリック・ブレッド、タロイモのチップスの中から希望したものを付ける

植物ベースの代用肉を使ったハンバーガーのセットは8個分で55$。パンやトマト、レタス、唐辛子ソースが付いている

植物ベースの代用肉を使ったハンバーガーのセットは8個分で55$。パンやトマト、レタス、唐辛子ソースが付いている

医療関係者に届けるための弁当

医療関係者に届けるための弁当

病院スタッフに弁当を届ける

病院スタッフに弁当を届ける

 ◇新型コロナウイルスにどう立ち向かうか アメリカ外食産業の対応(2)

 新型コロナウイルスの感染者数・死亡者数ともに世界一となったアメリカの中でも、最も深刻な状況にあるニューヨーク州。長引く外出制限や営業停止措置のおかげで、外食産業は大打撃を受けている。州の過半数の外食店が集中するニューヨーク市では、閉店する店が後を絶たず、営業36年のファイン・ダイニングの老舗「ゴサム・バー&グリル」や、1873年創業の「パリス・カフェ」も、惜しまれながら幕を閉じた。

 生存を図っていろいろな善後策を講じている店は多い。ベーガンの創作寿司レストラン「ビヨンド・スシ」もその一つだ。シェフ・オーナーのガイ・バクニン氏は、生き残りを懸けたさまざまな方策に積極的に取り組んでいる。

 (1)デリバリー

 「ビヨンド・スシ」は、マンハッタン内に展開する7店舗のうち、2店舗がフルサービス、5店舗はテイクアウト中心。店内での飲食が禁止されたため、テイクアウトの店に備えたイートインスペースも閉鎖、アッパーイーストサイド店を拠点にしてテイクアウトとデリバリーを行っている。

 既存のメニューのほか、新型コロナ対策用に「ヒート&サーブ」と呼ばれる1人前のデリバリーと、「ステイ・アット・ホーム」と呼ばれる大人数用のデリバリーを始めた。

 1人前の「ヒート&サーブ」のメニューは、どれも1食16$で、ミニマムオーダーは6食分。冷蔵庫で1週間持ち、食べる前に電子レンジで温めるだけ。せっかく出前を頼むのだから、自宅ではなかなか作れないものを食べたいというのが消費者の心理だ。同店の料理は植物ベースでヘルシーだから、安心して注文できる。しかも、配達はノーコンタクトで、配達員と接することのない工夫がされている。

 メニューには、例えば「ローストした玉ネギとブロッコリー」「キノアにのせたケフタ・カバブ」「蒸し煮したヒヨコ豆と黒米のピラフを添えたジャックフルーツのバーベキュー」など、一般的に手に入りにくい材料を使った、手の込んだプロの料理10種類が並んでいる。前日午後8時までに、アプリもしくはメール、電話で注文をすることになっている。

 一方、大人数用のメニューは「スタッフト・アーティチョーク」などメイン料理7種、「3色のキノアサラダ」などサイド料理11種、「薫製したゴーダチーズとケールのラビオリ」などパスタ4種、「ココナツミルクベースのアイスクリーム」などデザート2種で構成されている。料理はアルミニウムのハーフパンで配達され、家庭で温めてから、それぞれ盛り付けをする。半日前に前もって注文することになっている。

 週末にはゆっくりブランチを楽しむ人が多いことから、「ブリオッシュのフレンチトースト」や「チョコレートチップ・パンケーキ」など、土日のみのブランチ6種も提供し始めた。

 (2)医療従事者への寄付

 外食店に寄付をして、医療従事者へ食事を寄贈するという試みは、全米で広く行われている。経営に苦しむ外食店と、負担に苦しむ医療従事者を同時に支援する試みだ。同店も「ゴーファンドミー(GoFundMe)」と呼ばれる募金サイトを通して寄付を募り、医療従事者に植物ベースの料理を届けている。2500$の目標額はすでに集まり、市内の病院に250人前の弁当を贈った。引き続き寄付を募って200$集まるごとに20人前の弁当を配達している。また、ニューヨーク、ロサンゼルス、フィラデルフィアで始まった「サポート・アンド・フィード(Support and Feed)」という、植物ベースの料理店と、病院、フードバンク、シェルターなどを同時に支援するプログラムにも参加している。

 (3)ギフトカード

 25$、50$、100$の額面のギフトカードもWebサイトを通して販売している。ヘルシーな料理をオファーしているだけに、贈られた側には喜ばれる。

 大きな打撃を受けた外食産業にとって消費者からの支援も大きいが、ただし、新型コロナウイルス割増金を請求した店には批判が集中した。自発的に支払う支援金ならいいが、店側の都合で支払わされる割増金は、たとえ少額でも納得できないという。要するに、支払う側の意思が働くかどうかという点が問題になっている。

 外食はただ単に食事をするだけでなく、楽しい時間を過ごす憩いの場を提供する。フェイスブックの創始者・マーク・ザッカーバーグとプリシラ・チャン夫妻は、行きつけの8店に10万$ずつ、計80万$(約8600万円)を贈った。ゴーファンドミーのサイトでは、個々のレストランを救済するための募金が多数登録されているが、募金する人のほとんどが顧客で、それぞれ温かいメッセージを添えている。再び外食を楽しめるようになることを願って支援する人は多い。

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