高齢化や消費期限の延長により高まるリステリアによる食中毒のリスク 専門家が示す、知っておくべき食品工場におけるリステリア管理の重要性【PR】
リステリア症は、高齢者などのハイリスク者の発症が多く髄膜炎や敗血症など重篤な症状を示し、致死率は約20%と非常に高い。また妊婦が感染した場合、早産や死産、新生児の髄膜炎や敗血症のリスクがある。そのような重要な感染症であるリステリア症の原因の99%が食品由来との報告もあり、リステリアによる集団食中毒が起きている米国では食品工場における厳重な管理が求められている。日本においては一部の食品を除き公的な規制はないものの、高齢化や食品ロス対策のための消費期限の延長が進むにつれ、そのリスクは高まっている。一方で、日本における集団事例の報告は2001年に北海道で発生したナチュラルチーズの事例1件のみである。日本におけるリステリア症のリスクは低いと言えるのか?
今回、リステリア研究の第一人者である、東京農業大学教授 五十君靜信氏によるオンラインセミナー※の内容から、日本におけるリステリア症のリスクと食品工場における管理について解説する。
※スリーエム ジャパン株式会社主催 2022年4月配信オンラインセミナー 「食品工場で管理すべき病原菌 リステリア環境検査の重要性」
<RTE食品で要注意!リステリア・モノサイトゲネスは冷蔵庫内でも増殖が可能>
リステリア症の原因菌であるリステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)は、以下3つの特徴により食品における制御が非常に難しいという。
特に「低温増殖性」について、リステリア属菌は一般的に病原微生物が増殖しないと言われる「4℃以下」でも増殖が可能だ。このため特に消費者が喫食前に加熱を行わない食品(いわゆるRTE食品)では、冷蔵庫内で保管する場合においても注意が必要だという。
<日本におけるリステリア症の感染リスクはEU諸国と同程度あると認識すべき>
リステリア症は感染から発症までの潜伏時間が長いので、食品を介して発症した場合、原因食品を特定することは難しく、散発事例では特定は困難である。一方で発症菌数が106CFU/gと高いことから、患者はほぼ食品が原因と考えられている。
先にも述べたように日本ではリステリア症の集団食中毒事例の報告は1件だが、海外ではリステリア・モノサイトゲネスによる集団食中毒事例は多数報告されている。例えば、1998年に米国22州にまたがって発生したホットドッグによる事例では患者数101人(死者20人)、2011年に米国19州で発生したカンタロープ(赤肉種マスクメロン)による事例では患者数84人(死者16人)が報告されている。
では、日本ではリステリア食中毒は、海外と比べて起きにくいと考えてよいだろうか?
2000年に日本で実施された、病床数100床以上の病院(2,258施設)を対象としたアクティブサーベイランスの結果から、日本の年間の患者数は83人、人口100万人当たりの患者数は0.65人と推定された。この結果から、日本におけるリステリア症の感染リスクは、平均的なEU諸国と同程度のリスクはあると認識すべきであると五十君氏は話す(図1)。
<高齢化社会で感染者は増加傾向>
その後、2010年に実施された患者数の推定調査の結果によると患者数は年間200人前後に増加していると推定された。リステリア症の患者を年齢別にみると、大部分を60歳以上の高齢者が占めている(図2)。感染者数が増加した理由の一つとして、60歳以上の人口が増加したことは大きく影響していると考えられる。日本は今後も高齢化が進むと予測されている。リステリア症はさらに拡大する可能性がある。
<RTE食品や食肉加工品、スモークサーモンなどにも注意が必要>
日本で流通しているRTE食品のリステリアの汚染率を調査したところ、輸入ナチュラルチーズでは検体の2.4%(1,387検体中33検体)がリステリア・モノサイトゲネス陽性であったのに対し、国産品はすべて陰性であった(国内品は最終工程に加熱工程があるが、海外品は非加熱のものが一般的である。製造工程が異なる点には注意が必要である)。
その他、さまざまな種類のRTE食品からリステリア・モノサイトゲネスが検出され、その陽性率は平均2~3%であった。特に食肉加工品やスモークサーモンで陽性率が高い傾向が見られた。
食肉処理場における実態調査では、ウシ、ブタ、鶏とも高い陽性率であった。これらの食肉を生で喫食することはないが、加熱調理前の食肉はかなりの割合でリステリア汚染を受けていることがわかっている。
<リステリア・モノサイトゲネスによる食品汚染を防ぐために有効な「環境モニタリング」>
リステリア・モノサイトゲネスの汚染は原材料由来のものと環境由来のものがある。特に最近のリステリア研究では環境由来の株が食中毒の原因となっているという報告が多い。そのため、製造環境からの交差汚染の防止に重点を置く施設が増えている。そうした対策の一つとして、欧米など諸外国では「環境モニタリング」という考え方が浸透しつつある。
食品施設の製造環境(例えば床や壁、ドア、ベルトコンベア、スライサーなど)にバイオフィルムを形成しているリステリア・モノサイトゲネスが最終製品に交差汚染を起こさないよう、環境モニタリングによって管理することが重要である。なお、自施設の汚染リスクレベルを把握し、リステリア環境モニタリングの戦略を立てる際には下記のような質問を基に考えるとよい。
リステリア・モノサイトゲネスはその特徴から、特に管理が必要な食中毒菌として欧米では環境モニタリングによる制御が進んでいる。高齢化が進む日本において、今一度リステリア症のリスクを正しく理解し、自社の製品の安全性について考える必要があるのではないか。
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