〈デジタル活用のヒント〉日清食品 D2Cを加速 “顧客視点”のマーケティングでヒット連発 ~マーケティング部・佐藤真有美氏に聞く~【PR】

日清食品は、自社のオンラインストアを活用したダイレクトマーケティングに積極的に取り組んでいる。消費者に対してメーカーが直接商品を販売する「D2C(Direct to Consumer)」で良質な顧客データを獲得し、消費者との距離を大きく縮めた“顧客視点”の商品開発やコミュニケーションでヒットを連発する。加工食品業界のリーディングカンパニーは、デジタルデータをどう活用しているのか――。オイシックス・ラ・大地のチーフ・オムニチャネル・オフィサー兼株式会社顧客時間の奥谷孝司共同CEOが、日清食品マーケティング部ダイレクトマーケティング課の佐藤真有美氏にメーカーと顧客の新しい関係性について話を聞いた。

日清食品マーケティング部ダイレクトマーケティング課 佐藤真有美氏
オイシックス・ラ・大地 チーフ・オムニチャネル・オフィサー兼株式会社顧客時間 奥谷孝司共同CEO

■D2Cは将来への投資

奥谷 私はメーカー向けにDXやD2Cに関する支援をしていますが、多くの企業が自社ECサイトの運営に課題を抱えています。日清食品にとってオンラインストアはどのような位置付けなのでしょうか。

佐藤 自社のECサイトを立ち上げたのは2000年です。ただ、当初はケース単位の販売でしたし、お届けまでに時間がかかるなど、決してホスピタリティーの高いものではありませんでした。ターニングポイントになったのは2016年のサイトリニューアルです。使い勝手や見やすさを大幅に改善しました。どんな商品でも1食から購入でき、即日出荷するようにしました。自社商品なら何でも揃い、最も便利に買える場所と位置付けました。

奥谷 オンラインストアの存在価値や役割は時代とともに変化します。現在御社ではどのような商品を販売していますか。

佐藤 オンラインで販売する商品の約半分は一般流通しているナショナルブランド(NB)品、残りは通販専用の商品です。ネット販売は流通会社を介さず消費者に直接販売するので、NB品に関しても賞味期限の近い商品をアウトレット価格で販売したり、新商品を一般流通に先駆けて先行販売し、そこでの反応を需要予測に使ったりもしています。

奥谷 D2Cに取り組む意義についてはどのようにお考えですか。

佐藤 D2Cへの注力は将来に向けた投資です。どれだけデジタルが進んでも、食品スーパーやコンビニエンスストアはなくならないし、買い物客がすべてWebに流れることもないでしょう。ただ、10年後の流通が今と同じ形かどうかはわかりません。その時のためにオンラインでさまざまなことにチャレンジし、マーケットで生き残れる可能性を探ることは重要だと思います。

■販売と商品育成を両立

奥谷 D2Cのメリットは消費者と直接つながれることにあります。販売データや商品のフィードバックを得られるため、まさに“顧客視点”での開発やマーケティングが可能ですが、実際にD2Cに取り組まれて何かお感じになったことはありますか。

佐藤 弊社の商品はAmazonやロハコなど圧倒的な集客力を持つ総合通販サイトでも購入できますが、商品によっては自社ECが最も売れるケースがあります。特にストーリー性のあるアニメやゲームコンテンツとコラボレーションした企画商品や、メディアでも取り上げられるような新機軸の商品などは、D2Cに向いていると感じます。

奥谷 新たな市場を作ることができるということですね。既存の商流とは異なる購買行動が見られるからこそ、メーカーがD2Cに取り組むべき理由になりますね。

佐藤 従来のサプライチェーンで販売する場合には、まず売上げ予測を立て、欠品しないように生産体制を整えたり、マスメディアで広告宣伝を行ったりしています。売れ行きが悪ければ販売店での取り扱いが継続しないこともあります。一方で、直営サイトの場合、計画に見合った規模で在庫を用意し、商品の売れ行きに応じて徐々に生産規模を拡大することができます。本当に新しいことに取り組むには優れているチャネルだと思います。

奥谷 市場で自社の競争優位を獲得するためには、マーケットを細分化してターゲット層を抽出し、それに対して競合との差別化を明確にするSTP分析が重要ですが、デジタルに取り組むとそのSTPが正される感覚がありませんか。

佐藤 そうですね。商品に対するSTPをリアルタイムで見直せるというのがD2Cの利点だと思います。また、商品のリピート率などは一般流通ではなかなか把握できませんが、D2Cであればアイテムごとにどのエリアで、どの世代に、どの商品が評価されているのかといったデータがとれます。消費者ときちんと向き合えるからこそ、企業の視点が正されるというのは非常に重要なポイントだと思います。

■リアルな数字で顧客理解

奥谷 D2Cではファクト(事実)がすべてリアルタイムにデータで把握できます。しかもそれはPOSデータとは異なり、すべて個々の顧客にひも付いた情報です。経営層や他部署の社員はこうした取組みをどのように評価していますか。

佐藤 経営判断の材料になるエビデンスが明確な数字で表せる点は、重宝されていると思います。社内向けにマーケティングプランの説明や取組みのレビューをする際にも、実データで裏付けができるため非常に効率的だと思います。

奥谷 ファクトで話せることで、マーケティング部門の正当性や説得力が増したということですね。自社ECサイトを誰がどう運営するのかは大きな問題ですが、御社の場合はどうでしたか。

佐藤 以前は別の部署で運営していましたが、16年のリニューアル時にマーケティング部に移管することになりました。ECサイトをマーケティングによって立て直すという経営層のメッセージだと理解しました。

奥谷 自社ECサイトの運営は販売チャネルを拡大する目的もありますが、顧客理解を深められるというメリットがあります。マーケティング力やSTPの精度を上げるためのチャネルとして、運営する意味があります。マネキン販売など店頭での施策も大事ですが、D2Cは直接顧客にアプローチでき、顧客とのつながりを可視化できる点が強みといえると思います。

佐藤 弊社も軌道に乗ったのはここ2年ほどで、今もトライ&エラーの繰り返しです。D2Cへの取組みが必ずしも売上げに直結するというわけではありませんが、大事なのはそこで何を学べたかということ。得られたフィードバックは必ず事業に生かせるはずです。

■重要なのはトップの決断

奥谷 顧客との関係性を深めるため、組織のあり方についてはどのようにお考えですか。

佐藤 デジタルを推進するためにはリーダーシップが重要です。弊社の場合は自社ECをリニューアルした16年に新たに専門組織を作るほど、経営トップから強いメッセージを発してくれました。D2Cへの取組みに企業規模は関係ありません。先行投資という意味でもトップの意思決定が必要でしょう。

奥谷 デジタルをベースに顧客とつながることが重要視されています。コロナ禍でも新しい関係性が築かれていると思いますが、これからのメーカーと消費者のベストな関係はどこにあるのでしょうか。

佐藤 メーカーは従来から続く間接販売と、D2Cなどによる直接販売の二つの販売チャネルを持つべきです。それは単純に販路拡大というだけではなく、マーケティングの面から見ても、直接販売だからこそ見えるものがあるからです。正しくマーケティングをするためには誰が買っているかを知る必要があります。ファクトとしてわかることはD2Cのほうが多いのです。どんどん便利になる世の中で、顧客はより便利でストレスフリーにモノが買える場、自分が一番心地よいチャネルを選びます。チャネルが偏っているのは危険だともいえると思います。

奥谷 D2Cで顧客と直接つながれれば、既存のサプライチェーンでも提案の質が高まるはずです。

佐藤 最終的には食品スーパーやコンビニエンスストアの店頭に並ぶ商品でも、最初のテスト販売だけはオンラインで行い、需要を確かめるといった取組みは増えそうですね。まずはデジタルで売れ行きを見極めてから、より適切な販売チャネルを選択しても良いかもしれません。オンラインでのリアクションを見ながら商品をアップグレードし、最終的に従来の大規模な商流に乗せるというやり方も増えそうですね。

(対談はオンラインで実施)


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