〈デジタル活用のヒント〉ミツカン 進むデジタルシフト DXが支える変革と挑戦【PR】

創業210余年のミツカングループが、社内プラットフォーム整備や働き方改革、マーケティング活動においてデジタルシフトを加速している。DX(デジタルトランスフォーメーション)推進の旗振りを担うのは、Mizkan Holdings執行役員CDO兼株式会社Mizkan CDOの渡邉英右氏。業務システムの統合や顧客と直接つながるD2Cの検討にも乗り出した。長い歴史の中で変革と挑戦を繰り返してきた同社が見据える未来とは何なのか――。オイシックス・ラ・大地のチーフ・オムニチャネル・オフィサー兼株式会社顧客時間の奥谷孝司共同CEOが渡邉氏に話を聞いた。

Mizkan Holdings執行役員CDO兼株式会社Mizkan CDOの渡邉英右氏
オイシックス・ラ・大地 チーフ・オムニチャネル・オフィサー兼株式会社顧客時間 奥谷孝司共同CEO

■ミツカンのCDOの役割

奥谷 多くの企業がDXに取り組み始めています。御社がその重要性に気付き、本格的にデジタル活用に取り組むことになった経緯を教えてください。

渡邉 私が入社する前から社内メンバーを中心にデジタルシフトは進めていましたが、2018年11月に「ミツカン未来ビジョン宣言」を策定し、それと同時にデジタルを強化していくことを正式に表明しました。その際、外部からプロフェッショナル人材を採用しようということになり、ご縁がありまして私がCDO(チーフデジタルオフィサー=最高デジタル責任者)としてアサインされました。

奥谷 一般的にCDOの役割は、顧客接点のデジタル化と、業務プロセスなど会社自体をデジタル化することの2つがあるかと思います。渡邉さんはどのような立場でアサインされたのでしょうか。

渡邉 当社は古くサイロ化された基幹業務システムを使っているため、私が入社した当時はその刷新を含めた業務も兼ねていました。ただ、会社としてその改善が急務だったため、20年9月に新たに役員がCIOの職に就き、私はCDOという立場で働き方改革やデータ活用、マーケティングのデジタル化などの業務にフォーカスすることになりました。

奥谷 渡邉さんのミッションを教えてください。

渡邉 1つ目は「働き方改革」に関すること。これまでミツカンは仕事のやり方が属人的で、業務が標準化されていませんでした。ここを変えていくのが私の役割のひとつです。もうひとつは「データ活用」。先ほどお話ししたように業務システムが古く、システム間のデータの連動性が悪かったので、どのようなデータをどのように活用をしたいかを起点に、ビジネスに活用するためのロードマップを作成しています。また、「マーケティングのデジタル化」も取り組まなければならない分野です。

奥谷 御社がデジタル、DXを重視する理由を教えてください。

渡邉 社内システムでいうと、いわゆる「2025年の崖」への危機感があります。既存の基幹システムやソフトウェアなどを見直さなければDXは進められません。新しいビジネスのスタイルに合致したツールやシステムを導入し、働き方も含めてデジタルシフトをスムーズに推進するべきだと考えています。

また、顧客接点としては生活者とのコミュニケーション面でデジタル化を進めることが重要です。これまで食品メーカーは100%安全安心な商品を大量に生活者に届けることが求められていました。しかし、生活者が情報に触れる環境が大きく変わり、商品がコモディティ化し、それだけでは価値を持たなくなっています。もっと生活者に寄り添うためには、データ活用やデジタルマーケティングが重要になってくるのがDXを重視する理由です。

■DXには従業員体験と顧客体験の融合が必要

奥谷 デジタルで働き方を変えていくために、具体的にどのようなことをされているのでしょうか。

渡邉 ミツカンはこれまでコミュニケーション基盤に「Notes」を使っていましたが、これを「Office 365」に移行しています。これにより部門間の壁を取り払い、オープンにコミュニケーションが図れる基盤を整えています。人事システムや評価制度も独自システムだったので、これを世の中の標準的なものに変えていく作業もしています。

奥谷 コロナ禍で働き方が見直される中、直近1年ではどのような成果がありましたか。

渡邉 まずはリモートワークの導入です。ただ、ミツカンはもともと愛知県半田市と東京ヘッドオフィスの2本社制だったので、導入に関して大きな抵抗はありませんでした。今はプロジェクトや仕事を目的・ゴール・戦略・評価の4つの大きな枠で考えるフレームワーク「OGSM(Object, Goal, Strategies, Measurements:目的、ゴール、戦略、評価)」による考え方を広めようとしています。ビジネスの目的およびゴール、そのための戦略を明確にし、到達状況を適性に評価する仕組みです。これまではツールの導入自体が目的になってしまったり、目的の曖昧な会議が設定されたりということが多かったので、今はその改善を進めています。

奥谷 DXは、EX(エンプロイーエクスペリエンス=従業員体験)とCX(カスタマーエクスペリエンス=顧客体験)の融合ではじめて会社にとって実用性をもたらします。まずはトップがデジタルの重要性に気付き、CIOやCDOとうまく連携していくことが重要ですね。

■直接顧客と繋がることによる新しいコミュニケーションの形

奥谷 昨今、顧客と直接つながりたいと思う企業が増えています。御社は「ZENB(ゼンブ)」でD2Cに取り組まれていますが、その狙いを教えてください。

渡邉 当社は「未来ビジョン宣言」の中で、地球環境に配慮しながらおいしさと健康の一致を目指すというビジョンを掲げました。その実現に向けた具体的な取り組みの一つが「ZENB」です。ブランドのビジョンを正しく伝えるには、顧客と直接つながる必要があると考え、D2Cに取り組みました。

奥谷 御社にはブランド力のある商品が多数ありますが、経営層にいわゆるマスプロダクトとして商品が配荷される既存のビジネスモデルに対する危機感があったのでしょうか。

渡邉 そうですね。ミツカンには2つの原点という企業理念があり、そのひとつが「脚下照顧に基づく現状否認の実行」という言葉。現状に満足することなく常に変革・挑戦していこうという意味です。当社には217年の歴史があり、これまでさまざまな危機を乗り越えてきた実績があります。コロナ禍で生活者の購買行動が大きく変化する中、新しいコミュニケーションの形としてD2Cに参入しました。

奥谷 私は既存のビジネスが〝量の経営〟だとすれば、D2Cは〝質の経営〟だと考えています。生活者と直接つながることで顧客が理解できれば、商品開発やマーケティングも変わってくると思います。D2Cを進めるに当たってどのような手応えや課題を感じていらっしゃいますか。

渡邉 顧客との相互コミュニケーションやデータ活用は正直まだまだだと思います。課題として感じるのは、やはりメーカーなのでプロダクトアウト的であるということ。これまではマス中心のコミュニケーションで、生活者のことを大きな塊としてしか捉えられていませんでしたが、実際には一人ひとりで異なった価値観を持ちます。こうした生活者の多様性を捉える意味でも、社内の意識改革が必要だと感じています。

奥谷 「ぽん酢サワー」などユニークな話題を提供していますね。よい意味でのプロダクトアウトは生活者とのつながりを生むと思いますが、マーケティング面での工夫はありますか。

渡邉 ぽん酢サワーは飲食業界向けの施策です。飲食店という場において、ミツカンの商品に触れて頂くきっかけづくりを目指しています。いろいろな投稿がTwitterやInstagramにあがっているので、それを分析して活用できたら良いのですが、まだそこまではできていないのが実情です。デジタルコミュニケーションの強化が今後の課題です。

■従業員の心に火をつける

奥谷 ビジネス基盤を支え、先手を打つという意味でもデジタルシフトは間違いなく進めるべきです。社内の従業員向けの施策でも、対外的な生活者向けの施策でも、血の通ったデジタル、すなわち〝ウォームハート〟と〝クールヘッド〟の両輪でビジネスを進めていかなければならないと感じました。

渡邉 そうですね。それと社内での役割分担をどうするかという点も重要だと思います。リーダーとCIO、CDOがどう連携していくか。ボトムアップ型だけではなく、経営層がしっかりとした方向性を示し、それを強いメッセージとして従業員に周知・浸透させていく努力も必要です。

奥谷 日本企業でDXを進めていくためには、渡邉さんがやろうとしているように部署を横断した横連携が無いとむずかしいと思います。組織を生活者視点にかえていくというところは簡単ではないですが、日本企業に多い〝ウォームハート〟の部分に、CIOやCDOといった経営層が火をつけていくことで、会社全体がデータドリブンになり、顧客理解が可能になるだけでなく、生産性も高まると思います。


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