HACCP制度化がスタート、卸・小売・外食・中食など全業種が対象

HACCPとは

HACCPとは、原材料の受け入れから最終製品までの工程ごとに、微生物による汚染や金属の混入などの危害要因を分析した上で、危害防止につながる特に重要な工程を、継続的に監視・記録する工程管理システム。もともとは、1960年代に米国NASA(航空宇宙局)の宇宙食の安全性を確保する目的で構想されたものであり、この内容を基に、93年にFAO(国際連合食糧農業機関)/WHO(世界保健機関)合同食品規格委員会(コーデックス委員会)が、HACCPの具体的な原則と手順(7原則12手順)を示し、食品の安全性をより高めるシステムとして国際的に推奨している。

米国では97年から一部の食品(水産物、ジュースの加工・輸入、食肉と食肉製品)に義務付けられていた。欧州連合(EU)は04年に1次生産品を除く全ての食品の生産・加工・流通事業者にHACCPを義務付け、06年には完全適用となった。現在、食肉についてはEU、米国、カナダ、香港など計12の国・地域、水産食品はEU、米国、ブラジル、ニュージーランドの4ヵ国において輸出にHACCPが必要となっている。それぞれの国のHACCPは微妙に要求項目が異なり、それぞれの国から工場・製品ごとに認証を受ける必要があった。
日本では、95年の食品衛生法改正で任意の制度で「総合衛生管理製造過程(通称=マル総)」としてHACCPが導入された。マル総は国際的調和の一環として任意の制度であったことから、企業にとっては、メリットがなく、当時は対象品目が乳製品や食肉製品などに限られていたことなどを理由に、HACCPの普及はあまり進まなかった。

世界各国からみて「一周遅れの状態」だったが、ようやく、日本でもHACCP制度化が始まる。

HACCP制度化 課題は50人以上の中小企業

(日本食糧新聞2020年6月1日号記事を抜粋)
6月1日から施行された改正食品衛生法で食品製造、卸、小売、外食、中食などほぼすべての業種を対象にしてHACCP制度の導入が求められる。経過措置は1年間で、2021年5月末までは現行の衛生管理でも違反ではない。地方自治体の保健所は、新型コロナウイルスへの対応が忙しく、食品衛生担当者が細かく指導できない状態だが、厚生労働省はHACCP制度導入では新たな設備投資は原則不要で、小規模の事業所にはHACCPの考え方に基づく簡易型を認めているので導入は着実に実施できるとみている。だが、中小企業に分類される、従業者が50人以上の製造業などは簡易型ではなく、HACCP7原則への対応が必要で、導入に当たって混乱もありうる。

食品衛生法によるHACCP制度化は原則として7原則が求められていて、例外として「小規模な営業者等」(表)は業界団体などが作成して厚労省が了承した業種別手引書に沿うことが求められている。手引書は5月20日時点でCVSでの店内調理、食肉処理など84業種・品目が厚労省のホームページ上に掲載されている。まだ厚労省が審査中のものもあるという。

厚労省は17年、18年のそれぞれ12月に札幌から福岡までの7都市で説明会を開いてきた。今年2月からも同じ7都市で説明会を開いてきたが、3月からの分は新型コロナウイルスの問題で延期となっている。今まで説明会を開いてきた感触で、厚労省の担当者はやはり、中小の製造業や飲食店などが課題という。

厚労省は説明会の再開の機会をうかがっている。加えて、緊急事態宣言が解除されれば可能となる、業界団体などによる小規模の会合での説明会にも期待している。さらに6月中には今までの説明会の結果などを踏まえて、ホームページに掲載しているQ&Aを拡充していく。

ノウハウ蓄積済み

現行の食品衛生法でも保健所の食品衛生監視員は営業許可の更新時や定期的な立ち入りの機会に事業所の衛生管理の状況を確認している。来年6月以降はHACCPに基づいて確認する。ただ、当面はHACCP導入の支援・助言が中心となり、「その時点で導入していなくても計画を立てていて実現可能ならば許容範囲」(厚労省・担当者)という。

新型コロナウイルスの問題もあって、保健所を対象にした研修などができない状況だが、「1995年から導入したHACCPを基本とした任意制度である総合衛生管理製造過程(マル総)の承認作業でノウハウはある」と厚労省の担当者はあまり危惧していない。

中小企業を支援する

農林水産省と厚生労働省は、従業員300人以下の製造業など中小企業へのHACCP導入が進んでいないという危機意識を持ち続けていて、そのために1998年からHACCP支援法を施行、低利融資などを続けてきた。さらに農林水産業の活性化、輸出促進などの新たな政策目標にも対応したHACCP関連の支援策が出てきている。

HACCP制度は一つではない

HACCPは食品の規格・基準などを定める国際的な機関コーデックス委員会が定めているが、7原則12手順もガイドラインという位置付けで、日本も含めてEU、米国などは独自のルールを定めている。また、国のルールだけでなく、HACCPにさらに上乗せしたオランダの民間規格FSSC22000、日本のJFS-Cや同等の規格を各国の大手小売業などが求めている。EUの大手小売業と商談がまとまっても輸出するためにはEUのHACCPへの適合と、大手小売業が推奨する規格の認証を取得しておかなければならない。

今回の厚労省のHACCP制度化は新たな設備投資を要求せず、ソフト面での改革となっているが、EUや米国などのHACCP、FSSC22000は設備基準もある。

HACCP支援法は設備投資や従業員教育の費用などを支援する仕組みだが、業界団体が作成している計画に基づいた仕組みが要求される。国内の農林水産業から原材料を計画的に調達し、1年以上の契約など条件は厳しい。また、業界団体の計画は厚労省が認めている「HACCP制度導入のための手引書」とは異なる位置付け。

また、4月に施行された農林水産物・食品輸出促進法は、衛生面を含めて各国の輸入規制と交渉する窓口を農水省に一本化し、農林水産物・食品の輸出促進につながる政策を実施していく。その中で輸出事業者が作成し、認定を受けた輸出事業計画がHACCP支援法の計画とみなして低利融資などが利用できる。HACCP支援法では20億円までの上限があるが、撤廃している。

農林水産物・食品輸出促進法は、HACCP、ISO22000、FSSC22000、JFS-Cの規格を満たす施設の整備やその効果を高めるために必要なコンサル費などの経費(効果促進事業)も支援。都道府県を通して2分の1まで補助する。2020年度第1次補正予算で上限を5億円まで拡大。農水省はすでに都道府県に調査票を送付済みだ。

作物の収穫など農林水産業は厚労省のHACCP制度の対象になっていないが、加工まで業務を拡大すれば対象となる。6次産業化への取組みを含む食品等の事業者が手引書をもとにHACPPを構築する場合への支援を行う。人材育成まで含めている。

日本発の食品安全マネジメント規格JFSとJFSM

牛海綿状脳症(BSE)などで世界的に食品の安全性が問われる時代に入り、HACCPだけでなく、設備基準、フードディフェンスなどを網羅した民間規格(フードセーフティマネジメントシステム、FSMS)が世界各国の民間機関が作成したSQF、FSSC22000などがそれにあたるが、こうした規格をカルフールなど世界的な小売業が取引先に規格の認証を求めていて、輸出に力を入れたい日本企業はFSSC22000などで対応していた。

こうした民間規格が乱立してきたことから、食品メーカーなどは複数の規格の認証を受けなければならないという事態になってきたため、ダノンなどの世界的な食品メーカーや食品小売業が集まって形成されたCGF(消費財フォーラム)という組織の中に、GFSI(世界食品安全イニシアティブ)をつくった。GFSIは、FSMSに必要なベンチマーク要求事項を策定し、その要求事項を全て満たす民間規格を承認することにより、FSMSにおける事実上の国際標準を運用している。承認を受けたSQFとFSSC22000は同等と評価されているため、SQFの認証を取得していれば、新たにFSSC22000を取得しなくても良くなった。

こうした世界的な動きを受けて、16年1月、農林水産省、大学研究者、食品関係企業の産学官の連携により、日本発の食品安全マネジメント規格を運営する「食品安全マネジメント協会(JFSM)」が発足。JFSMは、一般衛生管理を中心にHACCPを弾力的に運用する「JFS-A規格」、これにコーデックス7原則を含めた「JFS-B規格」、FSSC22000と同等性のある国際標準を満たした「JFS-C規格」の3規格を中心として、食品製造に限らず外食や中食などフードサービス事業者のための規格などを運用している。

食品安全マネジメント協会はフードチェーンを通じた食品安全及び信頼確保の取組向上と標準化によるコストの最適化を目的として、①規格、ガイドライン等の作成と認証の運営②食品業界内の人材育成③情報収集と発信を行う団体。

JFSにはA、B、Cの3段階の規格があり、B規格、C規格で要求するHACCPはCodex HACCPの要求事項と同じ内容を採用し、厚生労働省のHACCP制度化における「HACCPに基づく衛生管理」の基準に対応している。A規格は「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の基準に対応している。

今までHACCPに取り組んでこなかった中小企業は、A規格とB規格の適合証明を取得して学習という方法もある。A規格とB規格は監査機関によるコンサルテーションを受けることもできる。ただし、C規格は同じ審査機関が事業所に対してコンサルテーションと認証審査を実施することは許されていない。

オーシャンシステム、弁当・惣菜工場のHACCP導入 JFSフードサービス規格で実践

日配弁当の製造・販売を行うオーシャンシステムのランチサービス事業部・群馬店は2月6日に食品安全マネジメント協会が要求事項を定めているフードサービス分野向けJFS規格の適合証明を、アース環境サービスの指導を受けて取得。JFSフードサービス規格は国のHACCP制度化にも対応でき、従業者の意識向上につながるという。

新潟県三条市に本社を置くオーシャンシステムは、日配弁当の製造・販売のほか、食品スーパーや食材の宅配サービスなど幅広い事業を手掛ける。ランチサービス事業部は、当日調理・盛り付けの栄養バランスに配慮した日替わり弁当をオフィス・工場に届ける。もともとHACCPの手法に取り組み、洗浄殺菌や手洗いなど一般衛生管理を基本にして、製造工程ごとに厳しく管理していた。

工場や店舗の衛生監査から付き合いのあるアース環境サービスの指導で、取引先からの信頼が高まる第三者認証のJFS規格の適合証明取得に向けて活動してきた。

弁当に使う個々の食品は「蒸す」「炒める」「焼く」「茹でる」「揚げる」と加熱だけでも多様で、同じ食材でもメニューによってその調理方法が変わる。そのため、HACCPの計画を立てにくい。

アース環境サービスは、製造工程をすべて分類、整理し、工程ごとに食品安全に必要な管理手段をまとめた。HACCPに要求される記録を徹底し、JFS規格に必要な原材料調達先から販売先までの情報管理をできるようにした。「記録がなぜ必要か」を徹底的に従業者に説明したという。安全性を確保するのは「人」と位置付ける。「人」の力を高めることは企業活動全体にも好影響を与える。オーシャンシステムはJFSフードサービス規格の水平展開も検討中だ。

人手によって弁当を製造していく(オーシャンシステムのHPから)

バックナンバー