海外のリステリア対策と日本の食品事業者に求められる今後【PR】
海外では毎年のように死者を含む集団食中毒事例が報告されるリステリア。日本においては過去の1例のみで認識も低い。リステリア食中毒は、妊婦や高齢者、免疫力の低下した人が罹患(りかん)すると、重篤化し生命に関わるおそれがあることから、海外ではRTE(Ready To Eat)食品におけるリステリアのリスクを考慮した法規制(基準値)が設定され、「環境モニタリングプログラム(EMP)」の実施が徹底されているなど、自主衛生管理や自主検査の強化に取り組んでいる。
こうした体制が浸透している海外と日本の現状を比較すると、日本は取り残されていないだろうか?
海外の食中毒情報に詳しい東京海洋大学の木村凡名誉教授のインタビュー記事から日本に必要なリステリア対策を考える。
リステリア食中毒は多様なRTE食品を原因として、世界中で起きている!日本も例外ではない
世界および米国での過去30年間50万サンプル以上の統計をまとめた論文によると、各国のさまざまなRTE食品でリステリア食中毒が発生している(表1)。
一方、日本ではリステリア食中毒は1件しか報告されていないため、多くの方は「リステリア食中毒はほとんど発生しない」という認識をもつ。しかし、2004年の病院などの実態調査では、毎年83件(0.65件/100万人)のリステリア症例が発生していることが推測されている。この数値は日本が海外と比べて極端に少ないわけではなく、日本でも起こっていることを示唆する(図1)。
米国では2022年、エノキ茸由来のリステリア食中毒が発生した。東洋の食材であるエノキ茸は韓国や中国から輸入されたものであり、この事例は、東アジアの国々にとって「自国の食材がリステリアに無縁でない」と再認識するきっかけとなるだろう。
米国では全RTE食品で規格基準を設定し、ゼロトレランスの厳しい基準で管理している
さまざまなRTE食品でリステリア食中毒が発生しているが、海外(米国・EU)と日本でリステリアの規制に違いがある。米国とEUで共通しているのは、すべてのRTE食品にリステリアの規格基準が適用されている点だ。一方、日本ではリステリアの規格基準は非加熱食肉製品(生ハムなど)とナチュラルチーズでしか設定されていない。この点で日本と海外(米国・EU)との間には顕著な違いが見られ、日本がガラパゴス化している。そして、規制の基準値が存在しないことは、積極的にEMPや自主検査に取り組む食品企業が少ないことにもつながる。
米国とEUでは、すべてのRTE食品にリステリアの規格基準が適用されている点は共通だが、食品中におけるリステリアの許容量が異なる。米国では「25g中に1CFUのリステリアが検出されてはならない」という厳しい規制が設定されているが、EUでは、100CFU/gに設定している(表2)。
海外ではこのようなリステリアの規格基準が定められているため、食品事業者は本菌を制御するためのEMPも実施している。EMPでは製造環境における汚染状況を確認し、管理する必要がある。
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日本では「リステリア食中毒が発生していない」という認識を、国全体として改め、全RTE食品でリステリアの基準が必要
国内では、十分な統計データが揃っていないため、リステリアのリスクに対する意識は欧米と比べて低いが、「日本ではリステリア食中毒が発生していない」という認識は、国全体として改める必要がある。
実際、病院のデータではリステリア症患者は発生しているが、「食品との直接的な関連が十分に解明されていない」という点が問題である。日本と同様に「リステリア食中毒は起きない」といわれていた中国でも、すでに行政レベルでリステリア症の実態解明に取り組み始めている。日本のリステリア対策は他国の取り組みに比べて遅れをとっており、このままだと国際的な流れから取り残される可能性があるといえる。
行政に検討してほしい今後の施策は、法的基準値の設定と全ゲノム配列データベース構築である。現行の非加熱食肉製品やナチュラルチーズだけでなくRTE食品全体に基準を設け、リステリア検査を普及・活発化させるべきである。食品企業においては、RTE食品全体でリステリアを認識し、EMPを含む自主衛生管理と検査を推進すべきである。EMPをHACCPの一部として位置づけ、特に輸出企業は欧米の全RTE食品での義務を理解し遵守する必要がある。
こうして海外の実践状況と日本におけるリスクを鑑みると、RTE食品のリステリア食中毒は決して他人事ではない。日本でも食品事業者は自社の製品のリスクを把握し、必要に応じてEMPを実施するなど、安全な食品を提供するための対策が必要不可欠である。
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