知識・ノウハウと最先端技術の融合 農業・食産業の知的財産とは 日本弁理士会 清水善廣会長に聞く 【PR】

日本弁理士会 清水善廣会長

農業・食産業でも知的財産は耳目を集めるところだが、知財の専門家である弁理士が所属する日本弁理士会の清水善廣会長は、「農業・食産業の関連知財の幅の広さは、他の産業分野にはない特徴であり、また輸出振興・事業者の海外進出に伴い、海外でも同様に多様な知財が関係してくるという複雑な様相を呈してきた」と語る。

農業・食産業の知的財産である「知識・ノウハウ」は暗黙知が多く、そして高度であると言われるのがその所以だが、一方で、時代の流れとともに最先端技術が導入され始め、それらはさらに高度化し深化している。知識・ノウハウが最先端技術と融合するとき、どんな課題があり、知的財産として何に気を付けるべきか、弁理士の農業・食産業への関わりについて清水会長に聞いた。

―日本弁理士会の概要を教えて下さい。

清水 まず弁理士は、知的財産に関する専門家であり、知的財産権の保護、利用促進、知的財産制度の適正な運用に寄与し、経済及び産業の発展に資することを使命としています。具体的な活動内容は、特許庁への特許、意匠、商標出願の出願代理を専権業務で行わせていただいております。それだけにとどまらず、ライセンス契約や知財訴訟、知財活用のコンサルティングなどに取り組ませていただいております。

2020年12月31日時点で弁理士の人数1万1609人であり、全員が日本弁理士会に所属しています。日本弁理士会では、①弁理士の指導・連絡・監督、②研修を通した弁理士の能力研鑚と向上、③知的財産権制度の研究と普及活動など多様な活動を行っています。特に、農業・食産業関係の研究・普及活動は、会内に設置された農林水産知財対応委員会が主となり活動しています。

また現在は「弁理士絆プロジェクト」という活動に特に注力しています。「弁理士絆プロジェクト」とは、第4次産業革命のフロントランナーとしての弁理士の活躍によりあるべき知財立国を実現するため、金融機関、他士業、企業、アカデミアなどとの外部連携を深めるプロジェクトです。これは今まで弁理士が接してこなかった業界の皆様へのアクセシビリティを高める活動でもあります。

―弁理士と農業・食産業の接点を教えて下さい。

清水 知的財産の分野の専門家である弁理士の業務は多岐に渡ります。このため、農業・食産業とも多くの接点があります。よく知られたものには、新しい技術やアイデアを保護する特許法、新しいデザインを保護する意匠法、商品やサービスのブランド力を保護する商標法があります。農業・食産業では、ノウハウや商標が伝統的に重視されてきましたが、近年では特許権侵害事件も見られ、ノンアルコールビールの分野でも問題になりました。

農業・食産業関係の比較的新しい知財としては、2015年から制度が開始した「地理的表示(GI)」があります。GI制度とは、伝統的な生産方法や気候・風土・土壌などの生産地の特性が、品質の特性に結びついている産品の名称のことですが、これにより産地と品質の観点から農林水産物やその加工品を保護し、他の産品と差別化することが可能になりました。

また種苗法も、知的財産法制の一翼を担う重要な制度です。2020年に種苗法の改正が決まりましたが、改正の目玉は、優良品種が海外に流出することを防止するために、輸出先・栽培地域を育成権者が制限できるようになったことです。海外、特に中国での種苗登録が増えているデータもあるので、海外での品種登録を行っておく必要もあります。弁理士は中国、韓国、台湾、ドイツなどの弁理士や弁護士とのネットワークもあるため、海外案件も対応しており、2016年度から2019年度までに、農水省の海外出願支援事業(植物品種等海外流出防止総合 対策事業)を通じた752件の支援のうち480件については、特許業務法人・特許事務所が支援していることが報告されています。

―弁理士として、農業・食産業への懸念事項はありますか。

清水 農業・食産業においては、技術、ブランド、デザイン、ノウハウ、データ、種苗、地理的表示といった、多様な知財が関係します。関連知財の幅の広さは、他の産業分野にはない特徴です。また、輸出振興・事業者の海外進出に伴い、海外でも同様に多様な知財が関係してくるという複雑な様相を呈しています。

また、第4次産業革命の影響は例外なく及んでおり、ノウハウやデータの重要性が相対的に高まってきています。同分野においては、近年の知財意識は高まってきているものの、未だ知財への取組経験がない事業者も一定数存在するため、弁理士としては、知財及び弁理士を農業・食産業の皆様に普及していくこと、つまり最初にも触れましたが弁理士へ接して頂く事、アクセシビリティを高めることが大きな課題のひとつだと考えます。


>知識・ノウハウと最先端技術の融合 農業・食産業の知的財産とは 日本弁理士会 清水善廣会長に聞く(2)

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