世界のアマニから3 韓国篇 “多重奏”はより豊かに【PR】
「日本の料理は『独奏』、
韓国の料理は『多重奏』、といえますね」。
以前取材した、日韓交流のあるシンポジウムで、
韓国出身の料理人がこう語りかけました。
「日本では、例えば、お蕎麦がわかりやすい例ですが、
出汁につける、もしくは塩をかけて食べる…と
素材そのものの味を楽しむ国民性です。
一方、韓国は、ビビンバのように
素材と素材を組み合わせる、混ぜ合わせる食が主流です。
どちらが良い…というわけではなくて、これは文化の違いですね
私はどちらも好きです」。
そんな“多重奏”の食の国・韓国を代表する一皿といえば、
チャプチェです。
韓国春雨・タンミョンに
色とりどりの野菜や、細切り牛肉など様々な食材を炒め、混ぜ合わせます。
ごま油の香りが食欲をそそるオモニ(お母さん)料理として、
各家庭や地域で味付けが違うのも特徴です。
そんなチャプチェの歴史は古く、
李氏朝鮮王朝時代(1392~1910)の半ばごろから作られていました。
しかし、このチャプチェが出てくる文献で最も古いとされる
「飲食知味方(ウムシッチミバン)」(1670年ごろ発行)の記載では、
チャプチェの“主人公”とも言える春雨が入っていません。
文献によれば、
きゅうりや大根、しめじ、椎茸、松茸、うど、わらびなど
体に良いとされる数種類の野菜を選び刻んで炒め、
仕上げに醤油や生姜、ごま油と共に、
「小麦粉を混ぜたたれ」をかけるよう記されています。
チャプチェを漢字で表記すると、「雑菜」。
「雑」は混ぜる、という意味となりますから、「混ぜ野菜」、
あるいは、いまで言うところの「餡かけ野菜」が
もともとでした。
そんなチャプチェに春雨が入ったのは20世紀になってから。
どうやら中華料理の影響を受けたようです。
そしていま。
このチャプチェはさらに進化し、
若者がサラダ感覚で
アマニ油をかけて食べるスタイルが増えているといいます。
韓国在住の友人も、
「食事の際、身体に負担をかけない効果があるといわれる
『野菜ファースト』(野菜をまず食べる)ならぬ
『チャプチェファースト』を意識的にしている」と教えてくれました。
韓国のある食品メーカーも
自社ホームページでこの食べ方を紹介し、
「食習慣を整えるとされるオメガ3脂肪酸など、
身体に良い成分が、韓国の伝統食で取れます」とアピールしています。
さらに、このチャプチェ。
新型コロナウイルス禍の中、
コッペバンにチャプチェを挟む“チャプチェドック”など
新種も町中で誕生しているようです。
在宅勤務など自宅で気軽に食べることができ、
かつ栄養価が高い…というのが人気の理由です。
チャプチェが生まれてから、400年以上。
時代をうまく取り込みながら進化する様子は、
「さすが食の“多重奏”の国」と感心するばかりです。
平岡直也(ひらおか・なおや)
新聞記者、出版社、放送局を経て、2020年4月「株式会社hasso.」を立ち上げる。企業や大学、地方自治体に「はっ、そう!」と思ってもらえるPR戦略を立案するほか、これまでの経験を活かし、フリージャーナリストとしても活動。池上彰氏と「池上彰と考える『死』とはなんだろう」(KADOKAWA)も上梓した。趣味は、「食べること」。仕事や取材で行った土地の料理と、“温泉”を必ず楽しむのがモットー。