食べ物の単位と漢字5 寸(すん)【PR】

美味も喉三寸

 [寸]は、長さの単位である。しかし、かなりの年配の方でないと、その長さがどれくらいかを即答できないのではないか。若い人だと、そもそも長さの単位だということも浸透していないようだ。
 たとえば、「一寸法師」。
 小さい頃の私は、[寸]が長さの単位だと知らなかった。だから、「一寸法師」には「小さな法師」くらいの認識しかなかった。しかし、あの小さなヒーローの身長が厳密に一寸であるはずがないだろうから、「小さな法師」という理解は間違ってはいない。「寸劇」、「寸暇(すんか)」、「寸評」、「寸志」など、「寸」は「短い、わずか」といった意味で使われることが多い。なにしろ、パソコンやスマホで「ちょっと」を変換すると「一寸」が出てくるくらいだ。
 では、[寸]はどれくらいなのか?
 [寸]の長さは、親指の幅に由来すると考えられている。ただし、現在の[寸]は私の親指の幅よりもすこし長くて、(1/33)m。つまり、約 3.03 cmだ。これは、1891年の度量衡(どりょうこう)法で定義された。古来から使われている[寸]が、メートルを使って再定義されているというのが面白い。しかし、現在では、取引・証明上の計量においては、[尺]や[寸]などの尺貫法の単位を使ってはならないことになっている。
 さて、「美味(びみ)も喉(のど)三寸」ということわざがある。三寸というのは、喉の長さを表しているのだろう。およそ 9 cmだ。喉で味を感じられるのかどうかはさておき、このことわざは「おいしいものを食べても、それを感じられるのは喉を通り過ぎるわずかの間だけだ」といっている。転じて、「どんな楽しいことも、それは一瞬だよ」という意味になる。なんだか悲しくなってくる。
 でも、だからって、栄養さえ取っていれば、おいしいものを食べなくてもいい。楽しいこと、うれしいことなんてなくったっていい――ってことにはならない。その「喉三寸の美味」に大きな意味があるのではないかと思う。三寸は、けっこう長いのだ。

星田 直彦(ほしだ・ただひこ)

1962年、大阪府生まれ。奈良教育大学大学院修了。中学校の数学教師を経て、現在、桐蔭横浜大学 准教授。実生活や歴史の話題を多く取り入れた数学の講義は好評である。幅広い雑学知識を生かして、「身近な疑問研究家」としても活躍。
おもな著書に、『単位171の新知識』(講談社ブルーバックス)、『図解 よくわかる単位の事典』(KADOKAWA)、『楽しくわかる数学の基礎』( SBクリエイティブ サイエンス・アイ新書)など多数。
ホームページ:「星田直彦の雑学のすゝめ」
ブログ:「雑学のソムリエ」

胸三寸(胸のうち、心の中の考え)、舌先三寸(口先だけの言葉)など、三寸という長さはいろいろな表現に登場してくる。いずれも短さのたとえだが、長さだけでは済まない含意も感じられるのがおもしろいところだ。ごまも、とても小さな食べ物だが、その中に含まれている栄養分はとても豊かだ。タンパク質、ミネラルが多いのに加え、成分の半分を占める脂質(油脂)にも、からだによいとされる不飽和脂肪酸が多く含まれている。小さな食べ物なのに、古来から大切に食べられてきた理由も、そこにあるのではないだろうか。

うまかあじ
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