タイ、宇宙食開発へ取組み拡大

総合 ニュース 2023.07.19 12613号 11面
CPFはタイ料理では定番のパッド・ガパオ・ガイ(鶏肉のバジル炒めご飯)から宇宙食化を進める考えだ=在ワシントン・タイ王国大使館の資料から

CPFはタイ料理では定番のパッド・ガパオ・ガイ(鶏肉のバジル炒めご飯)から宇宙食化を進める考えだ=在ワシントン・タイ王国大使館の資料から

 世界有数の食品供給国タイで、宇宙食開発への取組みが広がっている。6月には国内食品最大手チャルーン・ポーカパン・フーズ(CPフーズ)が宇宙関連企業と協力して、宇宙飛行士向けの食品市場への参入を表明。米航空宇宙局(NASA)の食品安全基準を満たすことに自信を示す。

 手始めに、タイ料理としては定番のパッド・ガパオ・ガイ(鶏肉のバジル炒めご飯)の宇宙食化を進める考えだ。一方、大学の機関などでは、昆虫を宇宙食に利用する研究が続けられている。

 宇宙食市場で勝負するには、航空宇宙開発で世界をけん引するNASAの食品安全基準をクリアすることが手っ取り早い。そこでCPフーズでは、米宇宙開発会社ナノラックスやタイで活動する衛星開発スタートアップ企業のミュー・スペース&アドバンスト・テクノロジーと協力して、厳格なNASA基準に挑むことにした。

 宇宙での研究開発は、最低でも数ヵ月から数年はかかる長い取組みだ。この間の品質維持はもちろん、無重力の宇宙空間で食品がどう変化・変質するかも不明な点も多い。加えて、宇宙飛行士の健康維持と安全・安心から鶏肉などに使われる残留物や汚染物質についても、通常よりは厳しい基準が設けられている。CPFでは3社が持つそれぞれの知見を活用して、これらをクリアする意向だ。

 参入の意向はCPFなどが開いた宇宙食に関するフォーラムで表明されたが、取組みはそれ以前から続けていた。22年2月には、パッド・ガパオ・ガイを乗せた高高度気球を高さ35マイル(約56km)まで浮上させ、品質の変化などを検証した。無重力空間がもたらす影響についても研究を続けている。

 一方、タイのチュラーロンコーン大学などの研究チームでは、宇宙空間で不足が懸念されるタンパク質や脂質を地球からの補給なしにどう確保するかの研究を行っている。それによると、最長3年間は品質が保持され、安全で栄養価が高く、持ち運びもしやすく、廃棄物が少ないなどの食品が求められているという。

 この基準を満たすものとして同チームが照準を合わせるのが、ヤシやバナナ、サトウキビに寄生するヤシオオオサゾウムシの幼虫サゴ虫だ。タンパク質と脂質が豊富な一方、メスが植物の成長点付近に穴を開けて卵を産み、幼虫が食べることから害虫として知られている。駆除の一方で宇宙食への活用が実現すれば、一石二鳥の効果が得られると研究者の意識も高い。

 人間によるサゴ虫の飼育が容易な点も、実現可能性は高いと見る。飼育箱のような密閉された空間で産卵・ふ化することも確認されており、長期間のタンパク源確保に向いている。味も生食の場合でカスタードクリームに、加熱後でサツマイモに似ているとして、宇宙飛行士からの抵抗も少ないと読む。

 このほか、果物の王様としてコアなファンが多いドリアンを宇宙食に活用できないかの研究も行われている。18年には乾燥させた果肉を米国の民間ロケットに積み込んで、ガスの発生状況や成分の変化などを計測した。世界一臭いフルーツとして知られるドリアンが、航空宇宙の救世主となるかとして生産農家の鼻息も荒い。(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)

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