タイで大麻合法化の動き 今後は食品への添加も検討
リラックス効果を生み、がんやてんかんなどの治療にも有益とされる大麻の合法化がタイで進められている。軍政下の昨年11月に暫定議会で改正麻薬取締法が可決・承認され、医療と研究目的での製造や輸出入、臨床試験、患者への投与が可能となった。民政復帰に伴い間もなく発足する新政権では、大麻の自由化を公約に掲げる政党も参加しており、タイ食品加工業者協会(TEPA)などでは食品への添加も求めていく。付加価値の高い新しい健康食品産業の育成につながるとの期待も寄せられている。
医療用大麻を解禁する改正法の成立後、保健省では生産や販売、所持、広告などについての省令の整備に着手。新政権発足前の6月内におおむね終える方針でいる。食品医薬品委員会(FDA)はすでに、タイ製薬公団(GPO)や一部の大学研究施設、病院などでの大麻栽培を許可。バンコクに隣接するパトゥムターニー県のGPO施設では、床面積約100平方mの栽培施設が稼働を開始している。7月に開始が予定される臨床試験での成果を経て、年内にも本格的な流通が始まる見通しだ。
合法化の流れを受けてTEPAでは、新たな食品産業を誕生させていくきっかけにしたいと、大麻成分を配合した健康食品開発についても認めるよう政府に求めていく方針だ。大麻が合法化された欧米などの世界市場では、大麻成分の食品への添加も認められており、こうして作られた飲料や菓子などはリラックス効果もあって、従来品よりも20~40%も高い値で取引されている。
TEPA加盟の民間企業の中には、すでにノウハウを確立させている研究施設もあるといい、合法的な大麻の栽培が広がれば、農家の所得向上にもつながるというのが主張だ。
天然の生育環境から大麻の栽培に適したタイでは、アユタヤ王朝時代(14~18世紀)に伝統薬としての大麻の利用が始まっている。数千、数万種があるとされるハーブ(薬草)と同様の位置付けで、薬として投与するほか食品への添加も日常的に行われてきた。それが近年の麻薬汚染とともに姿を消し、法律で生産や売買が厳しく制限をされてきた。
今回、一転して合法化が進んだ大きな転機の一つに、民政復帰のために行われた3月下旬の総選挙で、大麻の自由化を掲げた「プームヂャイタイ党」が第5党として大きく勢力を伸ばしたことが挙げられる。同党は2000年代に政権を担った旧タクシン派政党に所属した地方の有力政治家らが結成。産業界に強い影響力を持つ。同党の広報担当者は「使用を限定した大麻の自由化は国際的な流れであり、食品輸出国タイの新たな発展にもつながる」と意義を強調する。
保健省によれば、医療用や健康食品などに限って大麻が合法化されているのは、カナダやオランダ、英国、ウルグアイ、オーストラリア、ニュージーランドなど南北アメリカと欧州、大洋州を中心に約30ヵ国。アジアではフィリピンが16年に解禁をし、インドでも見直しが進められている。
(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)