デザイン評価にAIを活用 「買いたい」パッケージにより近づく?
食品は他業種に比べて圧倒的に新製品数が多く、改廃サイクルが早いことも特徴だ。厳しい状況下にもかかわらず製品を投入し続ける食品業界にとって、商品開発の時間削減と“売れること”は恒久的な課題といってもよい。その中でもパッケージデザインは、消費者が店頭で出会う“顔”でもあり“買ってもらえる”がどうかの重要なファクターとなる。今春、人工知能(AI)を使って“売れる”パッケージを迅速に探ることができるシステム「パッケージデザイン好意度評価予測AIシステム」が誕生した。開発を手がけた株式会社プラグの小川亮代表取締役社長にインタビューした。
4806商品480万人分のデータをAIが学習
-AIが評価する「デザイン好意度」とは?
当社が実施したパッケージデザインランキング調査で出現した、評価と関連の高い単語などが重要な要素です。“おいしそう”“爽やか”といったイメージ面から、“伝わりやすい”といった訴求面もあるでしょう。
それらを総合した上でAIが、消費者が“好き”と思うデザイン、すなわち“買いたい”と思う最終デザインまで導きます。
-AIビジネスを始めた理由は?
当社はもともと、調査会社とデザイン会社が合併し2014年に創立しました。それぞれ20年以上の間に培ったパッケージデザインに関する知見がAIシステムに集約されています。
本システムは、当社がこれまでの調査で蓄積していたパッケージデザインランキングやキーワード分析、レポートといった膨大な量のデータを活用しています。春秋2回ごとに調査を積み重ね、4806商品480万人のデータを所持しています(2019年8月末現在)。
それらをパッケージ画像の特徴量(属性)とともにAIに学習させることで、デザインの好意度を5段階(1.00~5.00まで)で予測するのです。
-AIシステムの使い方は?
非常に簡単です。Web上にパッケージデザインの画像をアップし、二つの変数、すなわちカテゴリー選択とブランドスコア入力を行うと、瞬時に評価を算出します。何回も検証を行うことも可能です。
ちなみに、飲料やビール、調味料、カップ麺といったカテゴリーに高い精度を誇ります。そのほか、化粧品、日用雑貨、薬品なども網羅しています。
ブランドスコア入力はブランドが持つ信頼度やイメージも評価を大きく左右する要素なので外せない工程です。こちらはYahooの検索数を参照します。日本ではYahooが圧倒的ユーザー数を誇りますし、こうした客観的評価の精度はより多くのデータを持たせた方が上がるからです。
商品開発の時間を大幅削減へ
-AIシステムを活用するメリットは?
新製品開発の過程において、食品のパッケージデザイン開発にかける部分が非常に大きいということはわかっていました。決定までに複数のプロセスを介し、時間もコストもかかるものです。消費者調査を行えば、数十万~数百万円、時間も1ヶ月近くかかるケースは少なくありません。また開発者の主観が影響しがちという問題もあります。
しかし、AIシステムを活用することで客観的な指標が得られるうえに、デザイン開発にかける時間を大幅短縮できる点が一番のポイントです。その分、商品開発側は異なることに時間を費やし、あるいは発売時期を早めることも出来るかもしれません。
-食品メーカーからの反応は?
昨秋の『東京国際包装展 TOKYO PACK 2018』にて発表をした時点でかなり手応えはありました。その一方で、こうしたAIシステムに対する正直な反応もくみ取る必要性を感じているのが現状です。
-正直な反応とは?
まずは、AIのはじき出した好意度値を信じていいのか、という少々疑いを持った声が届きました。漠然としたAIへのイメージではなく、きちんとシステムの中身を理解すると格段に使い方が広がりますので、今はその浸透に努めています。
そしてもう一つは、さらなるニーズの要望です。一度理解を深めると今度は出来ることへのリクエストが非常に増えるのです。実際、AIシステムでは様々な断片的データ結果を集積しているので、あらゆる角度から評価を探ることは可能です。
-要望への対応は?
まさに精度向上をさらに高めている段階で、この10月には性別やカテゴリーユーザーの評価測定も可能になる予定です。
また最も多いご意見としては、パッケージのどの部分に好意を抱いたかを知りたいというものです。こちらは来年2月までにサービスをリリースしたいと考えています。
あわせて現在、精度の向上や、イメージワード評価、どの部分が好意度評価につながっているかがヒートマップで可視化できるよう、東京大学情報理工学系研究科大学院の山﨑俊彦研究室と共同研究を進めている最中です。
デザイン開発にイノベーション
-AIはパッケージデザイン開発の革命となる?
AI評価によってデザインがブラッシュアップと修正ができるだけでなく、AI自身がデザイン作成を行うことも技術的には可能です。今回のシステムも含めたイノベーションをもって、デザインを作るプロセスが変革していくことを確信しています。
そしてなによりも、今までかけていた時間を別の労力に充てられるのは、商品開発において非常に重要なポイントだと思います。切磋琢磨する商品開発の世界ですが、コンセプトが明確な場合、マーケッターや商品開発者の苦労や悩みは大幅に軽減するでしょう。
専門家を招いた「パッケージデザイン最前線」セミナー開催
日本食糧新聞社は9月17日(火)に株式会社プラグの小川社長のほか、日本テトラパック、日本包装技術協会などの3名の講師を招いた「パッケージデザイン最前線」セミナーを東京で開催します。
詳細・申し込みはこちら
パッケージ・デザイン最前線セミナー AI好感度評価/世界動向/「日本パッケージングコンテスト」総評(食@新製品)