海外通信 外食ビジネスの新発想(105)果物を丸ごとアイスに仕立てる
●手作業でくりぬく「高級冷菓」
パリ6区、人気百貨店ボン・マルシェ付近と高級住宅街である16区に店を構える「FRUTTINI Paris Haute Glacerie」(フルーティニ・パリ・オート・グラシェリ)。店内に一歩足を踏み入れると、色とりどりの果物が美しく並ぶ、まるで美術館のようなエレガントな空間が広がる。レモン、イチジク、桃、ザクロ、ココナッツ、パッションフルーツそしてトマトなど、種類豊富な果物が整然と並ぶショーケースは圧巻だ。しかし、ここで販売されているのは生の果物ではない。すべて本物の果物を器として使ったソルベである。
創業者のマリ・ロールさんに話を聞くと、ブランドの原点は自身の幼少期の記憶にあるという。子どもの頃、レモンをくり抜いて凍らせ、少し砂糖をまぶして食べるのが好きだった。その素朴な楽しみが、果物そのものを冷たいデザートに仕立てる現在の「フルーティニ」へとつながった。
製造工程は、果物をくり抜くところから始まる。取り出した果肉と果汁を使ってソルベを作り、それを再び元の皮に戻す。果物一つ一つの状態を見ながら行う作業は、最初から最後まで職人による手仕事だ。果物の形や色、香りを生かしながら、素材そのものを別のデザートへと昇華させる。
「栄養価はそのままに、もともとのフルーツよりもおいしく、より良いものにする」。そこには、果物を単なる原料として扱うのではなく、その魅力を最大限に引き出そうとする創業者の考えがある。すべて本物の果物を使うため、欧米で皮ごと食べることが一般的な桃などは、皮も含めて楽しめるのも特徴だ。
フルーティニの魅力は、商品だけでなく、店頭のディスプレーにも表れている。マリ・ロールさんはショーケースを「エデンの園」と表現する。エデンの園が季節によって姿を変えるように、店頭の景色も変化し、訪れるたびに新しいサプライズが待っているという。
選ばれる果物は、単に旬であることだけが基準ではない。例えば10月は乳がん啓発キャンペーン「ピンク・オクトーバー」に合わせ、桃やドラゴンフルーツ、イチジクなど、ピンク色の果物をフィーチャー。季節とテーマを組み合わせることで、ショーケースそのものが一つの作品となる。
SNSで「映える」ことが価値の一つとなった現在、フルーティニは視覚的な美しさだけに頼るのではなく、素材、手仕事、季節、ストーリーを一体化させている。アイスクリーム、ソルベ、ではなく「Haute Glacerie(高級冷菓)」を掲げるのも、その付加価値の表れだ。
高品質な果物と贈答文化を持つ日本にとっても、示唆は大きい。身近な果物を丸ごと生かし、職人の技と創造性によって新たな価値を加えるフルーティニ。その発想は、農産物の高付加価値化や、食そのものを目的とした体験づくりにもつながる可能性を秘めている。(井澤歩)
●店舗データ
FRUTTINI Paris Haute Glacerie
24 Rue Saint-Placide,
75006 Paris, FRANCE















