飲食店成功の知恵(39)開店編 お店にとってトイレは死角に
最近は“しゃれた”と形容しても、少しもおかしくないつくりのトイレを備えた飲食店も増えてきているが、全体としてみれば、まだまだほんの“特殊”事例に近いのが現状だ。ことさらに“豪華”なトイレは必要ないが、飲食店に“あるべき”トイレについては、そろそろ真剣に考えるべき時に来ているといえよう。
というのも、まず、これまでの飲食店はトイレをないがしろにしすぎていたからである。狭苦しく、薄汚ない……ちょっと言葉は乱暴かもしれないが、ごく平均的なレベルはこんなもの。他店見学を重ねていけば、納得させられるはずである。
むろんその背景に、かつての日本の貧しい住宅事情や、不浄な場所として嫌う土壌があったことはいうまでもない。しかし、もはや時代が違う。電車のトイレのつくりまでが問題になる時代なのだ。飲食店のトイレがおざなりであっていいはずがない。
第二に、清潔感の問題がある。トイレはお店の中で一番の死角になる場所だということを、肝に銘じていただきたい。別のいい方をすれば、トイレは、店肌の荒れ具合のバロメーターなのである。
清潔感、クレンリネス意識の程度や、従業員の仕事ぶりが肌荒れを起こしていないかどうか、トイレを見ればすぐに分かる。トイレだけは例外で、あとはどこもかしこもピカピカに磨きあげている、などということは、現実には絶対にあり得ない。トイレが汚れているということは、お店全体に神経が行き届いていない証拠なのである。磨きあげた清潔感は飲食店の最も基本的な心構えだが、その第一歩は、トイレに対する考え方にあるのだ。
ところが、その当たり前のことを怠っているお店があまりに多いために、清潔なトイレを備えたお店は、そのことだけで競合店より優位に立っている、という皮肉な現象すら起こっている。そして、そこに気がついて、トイレの内装にいろいろとアイデアを凝らすお店が現れてきたわけである。
では、どんなトイレであればお客に喜ばれるのか。そのポイントは「居心地のよさ」にある。心の豊かさを求められる時代にふさわしい居住性が、トイレにも必要だということだ。
そのためには、まず最低の条件として「男女別々」を前提としたい。男性客と共用のトイレというのは、女性客にとって気分に水を差すものだ。どうしても無理ならば、化粧台を備え、男女いずれも一人ずつでしか使用できないように、一番表のドアにも鍵を付けるくらいの心遣いがほしい。トイレ自体の広さも畳一畳分くらいのスペースは取りたいが、それ以上に、化粧台と鍵は大事なポイントになる。女性にとってトイレは多くの場合「化粧直し」の場であることを忘れてはいけない。また、ほんの形だけ、申しわけ程度の鍵では、不安感が先に立ってしまう。
ドアのスキ間が空いているのも、言語道断である。と同時に、防音という点にも配慮が必要だ。とくに小規模店では、食事をしている最中のお客に、水を流す音が聞こえてしまったりする。とにかく、自分がお客の立場に立ってみれば、どんなトイレが不快か、おのずと分かるはず。ただし、不快でない、というだけでは十分ではない。さらに一歩進めて、居心地がよくなくてはならないのである。その意味では、トイレの中でもBGMを聴けるとか、気の利いたデザインを施すのは効果が大きい。
しかし、飾り立てることと清潔感を維持することとは、全く別の次元の話である。清潔感を保つには、水を流せるようにタイルの床と排水口を付けるなど、清掃しやすいつくりにすることが、一番の近道なのだ。
フードサービスコンサルタントグループ
チーフコンサルタント 宇井 義行