トップインタビュー 鈴茂器工・鈴木喜作代表取締役社長 “米食文化”を世界に

1993.10.04 37号 3面

‐‐鈴茂器工さんは単なるハードメーカーにとどまらずコメにこだわり、ソフトを含めた“米飯トータルシステム”をテーマとして新しいフードビジネスを展開、各方面から注目を集めているようですが。

鈴木 現在、スイッチを入れるだけで、コメの計量から炊飯、シャリ切り、握り、包装まで、すべてを完全自動化したシステムラインを完成しております。コンピュータにインプットしておくと、スイッチを入れるだけで、必要な量のコメを計量して釜に移し、きれいに洗米、コメの量にあった炊き水を自動的に計算して入れる。電気を熱源とした炊飯器もコンピュータ制御で、スイッチをいれるだけで火力コントロールの必要もなく炊飯できる。炊きあがったご飯は、合わせ酢を入れて機械に掛けると完全にかくはんできる。シャリ切り、ブレンドされて、最終的には寿司ロボットで握られ、包装された完成商品の形で出てくる。このほかにも、冷凍のネタを解凍する機械も完成しています。このシステムラインならば、ご飯を炊いたことがない人でも、寿司を握ったことのない人でも、誰でも簡単に寿司を作れるのです。

‐‐鈴茂の寿司ロボットは各方面から引き合いが殺到しているようですが。

鈴木 あちこちから「寿司ショップを出したい」という話は来ていますが、ほとんどの人が寿司ロボットだけあればすぐにでもできると考えているようです。しかし、実際にはそうではないのです。「寿司ロボットだけでは大変だからよしなさい」「どうしてもやりたいのなら、もう少し設備を整えた方が良いですよ」とアドバイスしています。すると、「資金がない」という人もいます。「それならやはりやめた方が良い」と、結局は丁重にお断りしています。

‐‐そういう意味では鈴茂さんはビジネス本位ではありませんね。ビジネス的な観点からすれば、黙って売ってしまえば良いのですが。

鈴木 しかし、それではあまりに無責任ですから「あなたの計画しているロケーションでは採算が合わないのでよしなさい」と忠告します。「どうしたら良いのですか」と聞かれれば「こういうロケーションを捜して来なさい。そうすれば一〇〇%バックアップしましょう」と提案し、当社には新規に寿司ショップを開店するユーザーのために、本社と東京工場に二つのオペレーションも作っておりますから、実際の店舗に機械をセットする前にノウハウを勉強できるのです。ハードの扱い方から、経営戦略、店舗設計、資材の調達方法などのソフトまで、全部指導することができます。トータルにユーザーのための指導環境を作っているのは当社だけではないでしょうか。

‐‐それができなければ単なる機械メーカーに過ぎませんね。

鈴木 当社の機械を導入して寿司ショップを始めて、経営が行き詰まった店は一軒もありません。

‐‐寿司ショップの経営と運営は一連の流れになっていますから、寿司ロボットはその中のひとつの歯車に過ぎないということなのですね。

鈴木 そういうことです。さらに、寿司ロボットの他にも私の「ドリームプラン」を実現するために、米飯に付随した商品をどんどん開発しています。中でも「おむすびサンド」が大変良く売れているようです。

‐‐「おむすびサンド」の良いところは、おにぎりのようにご飯だけを食べることがなく、必ず具も一緒に食べられることですね。

鈴木 やはり普通のおにぎりよりも、サンドイッチスタイルのおにぎりの方が食べやすく、おいしいからでしょう。将来、当社の機械の生産能力が向上していけば、おにぎりは全部サンドイッチ状態になる可能性もありますよ。

‐‐モスフードが販売しているライスバーガーに使用されているライスプレートも鈴茂さんが開発されたものだそうですね。

鈴木 ええそうです。今年はこのライスプレートの製造ラインを広く公開します。公開するにあたって、導入を考えているユーザーの方々に、どのような機械で、どのように使うのかを見て頂けるサンプルマシンを作って展示しようと現在、それを東京工場の広いショールームに展示して、ユーザーの方々に来て頂き、実際に見て頂こうと考えています。

‐‐先程の話に出ました社長の「ドリームプラン」も含めて、今後の具体的な展開をお聞かせ下さい。

鈴木 寿司ロボットは握った寿司を包装することによって長時間の保存を、つまり、あらかじめ量産できて、来客密度の高い時間帯にパーフェクトに供給できるという家業を企業化するだけの省力化ラインを完成させたわけです。そして、それが広く知られ、寿司の新しい形として認められ、随所に採用されてきた結果、今、直っ盛りで大輪の花が咲きつつあります。そこで、その花びらが散らないうちに、さらに同じ様な大きな花を咲かせようと考えたのが、お弁当を解体、改良した「FDランチ」という新しいアイデアです。従来の形のお弁当にはご飯が平均二〇〇㌘ほど入っていますが、これを四〇㌘ずつ寿司のシャリの形に成形すると五個できます。おかずとして付いていた食材を上に乗せ、回りを海苔で包むと軍艦寿司の様なスタイルになります。これを元のパッケージに戻したものが「FDランチ」なのです。元のお弁当よりも美しく衛生的で、しかも長持ちします。食材も寿司のように生ねただけでなく、火の通ったものを乗せることもでき、さらにご飯の上にクラフトをひくことでカレーやシチューなど水気の多いものもデコレートできるので、和洋中とバリエーションも広がります。

‐‐貴社の商品、店舗形態はイートイン、テイクアウト、ケータリングをうまく組み合わせていますね。

鈴木 現在の日本の経済の状態からすると、今後、不景気な時代が来るでしょう。現在、郊外レストランで一家四人が満足するような食事をすれば一万四〇〇〇円から一万五〇〇〇円はかかります。あと一~二年もすればそのような贅沢は消費者から拒否されるでしょう。その時に受け入れられる一回の外食費は一万円を割る金額ではないでしょうか。当社ではこれまで、包装寿司、おにぎりサンドFDランチなど様々なライス・ブティックスタイルの商品を開発してきましたが、今、業界に提唱したいのは、将来の経済状態を考慮したレストラン経営です。おいしいものを安く、しかもリッチな感覚も合せて提供する。そうしたコンセプトが九〇年代のトレンドになるのではないでしょうか。そのスタイルをすべて満たしたものが、この「テイクレストラン」です。米食文化を世界中に広げるという私の「ドリームプラン」の核となる新しいフードビジネスでもあります。

〈鈴木氏略歴〉昭和7年1月5日生まれ。同30年鈴茂商事個人創業。同36年1月法人設立、鈴茂商事㈱代表取締役就任。同40年6月鈴茂機械工業㈱に法人名改称。同61年4月鈴茂器工㈱に法人名改称、代表取締役就任、現在に至る。

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