飲食店成功の知恵(123)業種編 とんかつ店

1997.12.01 141号 8面

◆繁盛店と不振店色分け

とんかつは、数ある専門店メニューの中でも代表的な人気商品である。日本人好みの豚肉料理で、ボリューム感とごちそう感もある。そして何より、日本人の食生活にしっかりと定着している。弁当メニューやサンドイッチメニューでも、定番の一つになっているほどだ。

これほど幅広い支持をもつ商品なのだが、その専門店であるとんかつ店は、いまひとつのカベに突き当たっている。繁盛店と不振店とに色分けされてきているのだ。

かつて店数が一気に増えた時代があったが、それは外食業自体がまだ成長していなかった時代でもあった。さまざまな飲食店がそれぞれ特徴を競っている今、外食メニューとしてのとんかつの魅力が半減していることは否定できない。

生き残り策を真剣に考えなければならない時期に来ているといえよう。そのためには、この業種のメリットとデメリットをしっかりと把握しておく必要がある。

とんかつ店の第一のメリットは、単品商売だということだ。そのため、材料の仕入れ、管理とも非常に簡素化される。特に主材料である豚肉は、生産システムの進歩によって、価格、量とも安定供給体制にある。

第二のメリットは、ポピュラーメニューでありながら客単価が比較的高いことだ。これは、ボリューム感とごちそう感が後押ししている。

第三のメリットは、高度な調理技術が不要という点である。かつては洋食コックの代表的な独立開業業種だったが、今は違う。フライヤーの性能が格段に良くなったため、素人でも練習さえ積めばそこそこ一人前に揚げることができる。キャベツの千切りは、プロでもフードカッターを使っている。

しかも、仕事自体は単純作業だから、人件費がかからない。パパママ店向きの業種でもあるわけだ。

◆健康志向訴求は不可欠

では、この業種にはどんなデメリットがあるのか。

第一は、立地の問題である。単品商売でしかも重食のため、お客の来店頻度はどうしても低くなる。従って、繁華街とか商店街など、店前通行量を確保できる場所に出店する必要がある。しかも、重食でありながら日常食でもあるので、一階立地が望ましい。当然、家賃、保証金が高くなる。

第二は、材料原価率が高いことだ。とんかつは、主材料である豚肉の品質がストレートに商品力に反映する商品である。今豚肉は安定供給されているといったが、それは品質を別にしての話で、競争力をつけるには肉質にこだわらなければならない。つまり、人件費がかからない分、材料費で食われてしまうのだ。

第三は営業時間の制約である。重食だから、夜遅くまで開けていても意味がない。また、「飲む場所」にはしにくいためアルコールの売上げはあまり期待できない。せいぜい夜9時までということになる。通常はそれでもいいが、不振に陥った時の営業時間延長がきかないのは痛い。

こうしてみると、デメリットといっても大きなマイナス点ではないことが分かるが、それがいえるのは繁盛店だけである。

では、繁盛するためにはどうしたらいいのか。これは一にも二にも商品力である。豚肉はもちろんのこととして、卵、パン粉、そして揚げ油とすべてにこだわることだ。今は特にヘルシー感に敏感な時代だから、揚げ物というだけで不利になりがちだ。肉、油をはじめとして健康志向へのアピールは絶対に欠かせない。

それも、ご飯、味噌汁、お新香の三つは注意してほしい。これがまずいと、どんなにとんかつがおいしくても支持されない。

(フードサービスコンサルタントグループ チーフコンサルタント 宇井義行)

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