特集・回転寿司:超繁盛店ルポ グルメ回転ずし「すし勢」

1998.10.05 163号 6面

茨城県や栃木県を中心に六店舗の郊外型レストランを経営する(株)小野瀬フーズは昨年11月にグルメ回転ずし「すし勢」をオープンしたが、開店以来、プロのすし職人や飲食店経営者が続々と見学に訪れる注目の超繁盛店となっている。

JR宇都宮線小山駅から車で一〇分、国道五〇号線に面する郊外型レストランの集合体「小山おいしい広場」にすし勢はある。8月下旬の平日の午後2時30分、(株)小野瀬フーズ・小野瀬社長のインタビュー前に取材兼昼食に入った店内は、二〇人以上が座れる待ち席でも足りず、立ち待ち客がいるほどの大混雑。

ウエーティングシートに氏名を記入し、待っている人数を数えると何と二七人。どんなに繁盛している回転ずし店でもキャップ付きの皿を細々と回すのが精いっぱいのアイドルタイムに、ウエーティング客で沸き返る店内。

「ピーク時にはお待ちのお客さまが四重になってスタジアム状態になります」と小野瀬社長。昨年11月のオープン以来毎月売上高は前月実績をクリアし続け、開店一〇ヵ月目の今年8月には月商三七〇〇万円を記録。これが「日本列島総不況」と月例経済報告した堺屋経企庁長官が見たら間違いなく絶句する脅威の超繁盛店すし勢だ!

約三〇分待ってやっと座れた席は、コンベヤーの終わり付近。皿が先に取られてしまいほとんど回ってこない。お客さまが少なくてネタが乾くので皿を回さないで「たちのすし屋化」している回転ずしは多いが、すし勢は売れ過ぎて一日中「たちのすし屋化」している。

結局全部で二一皿食べた筆者がコンベヤーから取ったのはわずか三皿。それらがすべて、自称北海道に五年もいたのですしにはうるさい筆者もうなる新鮮で良いネタばかり。マグロやネギトロといった人気商品が一二〇円の最安価格帯に数多くそろい、これらだけでも十分に満足できるのに、四〇〇円の高価格帯の品ぞろえも大変充実している。

トロ、ウニ、ボタンエビといった高級ネタは、ほかのグルメ回転ずしでは一〇〇〇円前後はする内容だ。そのため、一二〇円と四〇〇円の皿の売上高はほぼ同じで、総売上げの大半を占める。商品の内容が価格に大きく勝っていることをお客さまがよく理解していることの表れだ。

「和食店のセットのすしなら一つぐらい不満足なものがあっても、一緒に出せば召し上がっていただけますが、回転ずしはシビアです。駄目なものは取ってもらえず回り続けるので、絶対にごまかしは効きません。仕入れの努力、加工の努力、販売の努力がすべてあってお客さまに満足していただけるのです」と小野瀬社長は断言する。

すし勢のオープン時、自らカウンターの中に入ってすしを握った実務派社長だけに、その言葉には重みがある。実際、味に対するこだわりはすごい。ご飯は最高級ブレンドのコメを水分計で基準値と確認した後炊き、ポーション化したPBの酢とあわせる。

ネタは外注やパックは一切使わず、張り付けは絶対にやらない。店が加工した方が良い物は妥協しない。だからバックヤードは広い。客席を広くした方が売上高が伸びるとしても、バックヤードは縮小しないという。

これほどまで味にこだわるすし勢だけに、サービスについてのこだわりも半端じゃない。「どんなに繁盛してもおやじ感覚を忘れるな」と言う小野瀬社長の教えの通り、これだけ忙しい店でありながら、歯の弱いお年寄りには「ジャンボ鮪」や巻物を笑顔で一口サイズに切ってあげる。小野瀬社長が何より社員を大切にしていることにより、社員がお客さまを大切にしていることの一例だ。

日曜・祭日には開店と同時に、平日にも開店一五分後には満席となるすし勢。ピーク時には一時間半にもなる待ち時間の改善と一生懸命やってくれる社員の夢とプライドのために、来年3月には小山から車で三〇分の結城にすし勢二号店を、郊外型居酒屋・イタリアンレストランと三店舗同時オープンする。

さらに5月にはすし勢のFC一号店も宇都宮にオープン予定だ。今でも遠くは足尾、佐野、足利からわざわざやってくるお客さまもいるだけに、今後北関東を中心に超繁盛店すし勢が続々と誕生することは確実だ。

将来的には関東に年商三億円クラスの郊外型グルメ回転ずしを一〇〇店舗、年商三〇〇億円企業を目標とする。社員の質、店の質、商品の質のいずれを取っても日本一の回転ずしを目指すすし勢に、日本列島の不況風を吹き飛ばしてもらいたい。

◆ 小野瀬憲一(おのせ・けんいち)昭和26年、茨城県出身。すし屋の板前からスタートし、二一年前に魚の行商「小野瀬水産」創業。一二年前和食店を下館市に開店、以後三店舗を構築し、昨年11月、板前時代からの夢だったグルメ回転ずし「すし勢」をオープン。仕入れが分かり、加工が分かり、経営が分かる三拍子そろった業界では珍しいオールマイティー経営者。会社は社員第一主義、社員は顧客第一主義を徹底し、「人間万歳」を理念とする。

◆(株)小野瀬フーズ/代表取締役=小野瀬憲一/創業=昭和52年/本部所在地=茨城県下館市菅谷一五二六、Tel0296・25・3888/ストアブランド=すし勢、ほか/店舗数=六店舗(直営のみ)/モデル店と店舗所在地=すし勢小山店(平成9年開業)栃木県小山市萩島字沖四五‐一、Tel0285・38・3322/立地・坪数・席数=郊外型・七七坪・五一席(カウンター三五席・ボックス一六席)/営業時間=午前11時~午後10時、年中無休/客単価=一六〇〇円/一日来店客数=平日七〇〇人、日曜・祭日一〇〇〇人/月商三七〇〇万円/従業員数=正社員七人(ほかアルバイト七〇人)/客層=女性の方が多い。週末はファミリー客が大半を占める。

■筆者紹介■ 谷口正俊(たにぐち・まさとし)一九五六年、神戸市出身。立命館大学経済学部卒業後、セゾングループの外食部門の会社(株)チェポ(現・コモコフード)に入社。店長、SV、営業所長を経て三〇歳で取締役就任。四〇歳を契機に独立し、(株)かいエンタープライズを設立。現在レストランとFF店を経営し、飲食店のコンサルタントとして活躍。理論より実践、システムよりマインドがモットー。

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