特集・回転寿司:出店ブーム様変わり、勢いづく高級化志向
回転ずしは、一九五八年(昭和33年)に現在の「廻る元禄寿司」が東大阪市の布施駅前に一号店を開店したのが始まりである。開店当時は一皿四個で五〇円で販売され、現在も当時の一号店は繁盛店として営業中である。
一九九六年4月19日付の日本経済新聞朝刊によると、全国に回転ずし店が約四〇〇〇店あり、年商四五〇〇億円の市場規模であると発表された。このデータをもとに一店舗当たりの平均月商を割り出すと、約九三八万円となっている。
四〇年前に、一皿四個で五〇円から始まった価格も現在では、全品一〇〇円均一価格の店や三段階、四段階と小刻みに価格設定している店など営業方法もさまざまとなってきた。このように価格の点でもファストフードからすし店へ向かいつつある店舗もある。
現在一〇〇店舗以上展開するチェーン店も出てきたが、しかし、大手チェーンが必ずしも常勝ではなく、逆に局地戦では分が悪い店舗もある。地方の回転ずし店は、季節ごとの地の魚を意図的に商品化することで、地元客はもちろん他県からもお客さまを集めているケースもある。よって、ローカルに徹することでネタぞろいに差別化ができ、小規模店にも勝算がある。
昭和30年代に誕生した回転ずし店も、はや四〇年を経て飲食業の一つの形態として認知された。かつて八〇年代後半は、それまで都心部中心に進出し、回転ずしのパテントが時効となったのをきっかけに、郊外に出店する“第二次ブーム”といえる状況が生まれた。
現在は、第三次の出店ブームといわれている。いずれも基本的に回転コンベヤーに皿のすしを回して売るというシステムは変わらないが、従来の“古いタイプの店”は淘汰されつつある。
かつて「安かろう悪かろう」の代名詞のような存在だった回転ずし店を“古いタイプの店”とすれば、“新しいタイプの店”は、かつての回転ずしのチープ感を完全に払拭し、たちのすし店とそん色ないレベルの商品を提供する仕組みを作り上げたところにある。
現在の回転ずしは“第三次ブーム”と呼ばれ、すしマーケット一兆五〇〇〇億円の三〇%の四五〇〇億円を回転ずし店で売上げている。
回転ずし業界は二極化しつつあり、大手チェーン店のようにすしロボットなどの利用でパート・アルバイトを中心にした経営効率重視型と、店舗の加工を増やして職人が中心で握る高級志向型に分かれつつある。
回転ずし店においても使い分けが進んでおり、単に安さのみを理由に利用していないお客さまも増えている。
全国に回転ずし店が四〇〇〇店、年商四五〇〇億円の市場規模まで成長した背景には、回転ずしがすしの業態の一つとしてお客さまから認識されるようになったことが大きい。立地条件から大きく二つに分けると、都市型店舗と郊外型店舗に分けられ、都市型店舗は主にサラリーマン、カップル、学生などの徒歩客が中心である。また、郊外型店舗は主婦や三世代の家族連れを主な客層とし、車による来店がほとんどである。
一般的な利用頻度は月一~三回が最も多く、週一回というヘビーユーザーは四〇代以上の男性で昼食利用が多い。このように回転ずし店は、FFS(ファストフード・ショップ)の利便性をもち、かなり利用頻度の高い業態でもある。また、一人当たりの平均食数は七~八皿で、女性が五~六皿、男性が九~一〇皿である。当然、一貫当たりのシャリとすしネタのボリュームによって大きく変わってくる。
従来の安さや早さだけが売り物の回転ずし店では、スーパーやコンビニのすし、あるいは宅配ずし店と競合せざるを得ない。昨今登場してきた新興勢力の“新しいタイプの回転ずし店”は「グルメ回転ずし」とか「スーパー回転ずし」とか呼ばれているもので、「回転ずし」をあくまで「たちのすし店」としてとらえている。安価でお値打ち感のあるおいしいすしを提供するため、回転ずしという仕組みを生かしている。
その特徴は、従来の“古いタイプの回転ずし店”に比べてすしネタの品質が格段に向上している点にある。回転ずし店でありながら、白身や貝類は活けものを使ったり、イカやマグロなどの人気商品は二種類以上そろえているなど選択の幅も広げている。
また、回転ずしという業態の弱点でもある“鮮度・おいしさ”や“清潔さ”にこだわったグルメ回転ずし店は、お客さまの感覚を確実に変え、たちのすし店市場にも影響を与える存在となっている。
従来の回転ずし店は「安かろう悪かろう」のイメージが強く、安さや早さだけを求めた若いファミリー客が中心で占められている。これに比べ新興勢力のグルメ回転ずし店は、たちのすし店の商品力と、回転ずし店の家族客でも安心して利用できる商品構成・価格帯に配慮し、両方の魅力を引き出した点に特徴がある。
お客さまのグルメ志向が強い現代、すしの潜在需要は結構高いものがある。回転ずし店もこの幅広い客層や幅広いすし需要に応え、地域にしっかりと根を張った商売をする必要がある。鮮度の高いネタはもちろんだが、ネタのうまさをいろいろと引き出す工夫をすることで、その魅力をさらに増すことができる。
また、極力チープなイメージを排除する必要があり、皿の上の紙POPや軍艦巻きを多く流すなどは避けるべきである。
グルメ回転ずし店の特徴としては、次の点が際立っている。
(1)すしネタの鮮度や品質が格段に向上(2)魚の仕入先も全国的に拡大(3)生魚を仕入れ、自店でさばいて利用(4)高級ネタ商品も多く提供する(5)新鮮な素材を使いきる(6)いけすを導入し、活魚をすしネタに利用(7)お客さまのし好に応じながら流す(8)ファミリー客対応のボックス席を設置(9)店舗・運営方法にチープさを排除。
また、回転ずし店においてもお客さまは常においしいものを食べたくて来店することから、食材の品質や調理技術、提供状態には細心の注意が必要である。常にお客さまの期待以上の内容で店舗運営がなされることで、お客さまの満足感が達成され、次回の来店につながる。
よって、鮮度のよいネタを提供しようとすれば店舗段階のさばきやカットなどの仕込み作業が多くなり、徹底した品質重視の立場をとらざるを得ない。
すしは日本人にとって食べ慣れたごちそう感の高い商品であり、鮮度の良しあしは大きく評価を左右する。よって、回すすしの鮮度を良い状態で提供するためにはタイムリーに流す必要があり、鮮度の高い魚の仕入れと商品提供までの鮮度管理が最も重要となる。
また、商品を流す段階においてはお客さまの食べたいものをレーンに並べることが大切であり、そのためには時間帯の喫食傾向を把握しておく必要がある。商品の鮮度管理を徹底するためには、次の点に注意し運営することが大切である。
(1)カラーコントロールを良く流す。
一般には五皿のうち、三皿を握りずし、一皿を軍艦巻き、一皿を巻物とデザートを流している。グルメ回転ずし店らしさを出すためには、握りずし・軍艦巻き・巻物とデザートの構成比を、6対2対2を7対2対1程度に握りずしの比率を高めることも検討する必要がある。
(2)時間帯コントロール表による管理を徹底する。
ABC分析により、曜日別のランチタイム、アイドルタイム、ディナータイムの時間帯別の商品販売個数を把握し、時間帯で流す商品の構成表を作り上げる。平日、日・祝、土・日の時間帯で流す商品の構成表に基づいて流すことで、販売機会損失を少なくする。よって、店長は各時間帯で何が一番出るのか、事前に予測して、それに基づいて製造を指示するのが重要な仕事となる。
(3)数値管理を徹底する。
品目別の販売個数をつかむために、各時間帯の棚卸しをする。販売数量をチェックしやすくするため、すしネタの切り込み段階で決まった数量をパレットごとに収納する。毎日品目別の販売個数を正確につけ、店長に報告するよう習慣化する。そして、店長が会議に報告し、比較検討して必要なコストに近づけていく。
(4)歩留まり率のアップを図る。
すしネタの仕込み段階で出てくる魚の部位を商品化することで原価率を引き下げたい。例えば、ホッキ貝のヒモやコバシラも使用することで食材ロスを可能な限り抑える努力も大切である。
(5)ロス基準表に基づき管理徹底する。
マグロやビントロのように劣化しやすい素材はロス基準表に基づいて処理する。ロス基準表には、判断者が分かるように写真入りで厨房内に張っておく。ロス品は廃棄商品表にチェックし、以後の流し方などを検討する。
(6)ロス商品のコントロールを徹底する。
ロス基準表に基づく処理品は廃棄するものと再調理するものに分類し、ロス率三%以内に収める。一定時間以上たったすしは、必ず廃棄する習慣を身につける。ロス商品の原因は自然蒸発と空調による乾きロスがほとんどである。
(7)経時劣化の早い商品に注意する。
生ハマチなどのように一周ももたないような商品は、基本的に注文後に提供する。ただし、ランチタイムなどのピーク時は回転率も高いことから、出具合をみて流すようにする。また、ハマチ、アジ、イワシなどの血合いのある商品は、黒く変色しやすいことからロス品になりやすい。
このように、商品の鮮度管理を徹底することで、回転ずしももはや安いだけじゃなくなった。マグロは三崎、タコは北海道と、仕入先にこだわりをもつ店では、八割以上なま物を使用し、ネタごとに仕入先をかえている。こだわりにより鮮度を高める工夫をしているのである。特に人気の高い上位一〇品の品質は、売上高に大きく影響を与えることから、よく仕入先を研究する必要がある。
回転ずし店の商品販売傾向は、それぞれの店舗の商品構成によって多少違いがあるが、一般にはなじみのあるマグロ、サケ、イカ、ウニなどの商品が上位にくる。二〇〇円台の商品まではよく売れるが、三〇〇円以上の商品に対しては販促方法を検討する必要がある。
また、上位一〇品で五〇~六〇%売上げることから、上位一〇品の原価率が大きく全体の原価率に影響を与える。よって、人気が高く原価率も高い。ウニ、マグロ、イカなどを混ぜて、イワシ、ゲソなどの原価率の低い商品を上位にくるよういかに販売するかがポイントとなる。
当然、販売数量別の上位商品はお客さまによく選ばれる商品であり、特にすしネタのボリュームや品質が問われる商品となる。この上位にくる食材に関しては戦略商品として仕入先の慎重な検討が必要となる。
すし店の競合は単に回転ずし店同士の競合だけでなく、業種・業態の垣根を越えた戦いになっている。すしマーケットには、たちのすし店から、中食市場の宅配ずし店、スーパー・コンビニで販売しているパックずし店や、鮮魚店の参入が目立つ包装ずし店などが含まれ、ますます多様化するとともに、競合も激しくなっている。
このように販売チャネルが多様化し、お客さまの選択肢も多くなった現代、選択眼も当然厳しくなっている。すし店自体が飽和状態の感がある今日、回転ずし店においても「うまい」との評判を得るため、多くの努力と飽くなき追求が求められている。回転ずし店の評判を得るためには次の点を注意すべきである。
(1)炊きたてのご飯を使用する。
(2)ネタも切りたてのものを使用する。
(3)客層にあったすしを流す。
(4)握りずしと軍艦巻きをバランスよく流す。
(5)注文が多くならないよう流す。
(6)経時劣化の早い商品は特に注意し流す。
(7)アイドルタイムは劣化しにくい商品を中心に流す。
(8)お客さまの顔を見て流す種類を決める。
(9)粗利の高い商品と低い商品をバランスよく流す。
(10)「何々を流します」とにぎり手もホール側も声をかける。
(11)お客さまの注文はその都度必ず握る。
(12)鮮度管理とロス皿のチェックをする。
(13)食中毒に注意する。
また、回転ずしをあくまですし店としてとらえ、安価でお値打ちのあるすしを提供するためには、回転ずしという仕組みを生かそうという考え方で臨むことが大切である。また、よりすし店らしさを出すためには、お客さまと握っている人がお互いに顔が見えるほうがよい。お客さまとコミュニケーションができるほうが、すし店らしい雰囲気がより増す。
このように、回転ずし店をすし店としてとらえ、そして繁盛させる秘けつとしては、次の点に要約されるのではないだろうか。
(1)鮮度のよい魚の確保をするため、仕入先を開拓しているか。
(2)食材回転率を上げるため、多くの来店客を確保しているか。
(3)お客さまの食べたいものがレーン上に並んで回っているか。
(4)食べたときにおいしいと思わせているか。
(5)会計した時にお客さまが安いと感じさせているか。
日々の営業で常に問われている。