名古屋版:シリーズ・今年の中部外食(16) 3ホテルのレストラン戦略
足かけ一〇年の構想をかけた名古屋駅の上の立体都市「JRセントラルタワーズ」が、いよいよ平成11年度に完成。駅周辺の外食店にとって吉と出るか凶と出るか。戦々恐々となりつつも乱戦模様はまぬがれない状況だ。今回は特にホテルの食にしぼって、駅周辺にある「ホテルキャッスルプラザ」「ホテルアソシア名古屋ターミナル」「ホテルセンチュリーハイアット名古屋」に、現状と打開策、将来への努力を聞いた。
「ホテルアソシア名古屋ターミナル」
メーンダイニングとして「エスペランス」をオープンさせて約一年。フレンチの高級料理から格下げ(?)し、アルザス地方の家庭料理レストラン「ブラスリー」のオープンは、いわばプライドを捨てての思い切ったチャレンジだった。
大手ホテルとの差別化を考えた時に、「ステータスとしての堅苦しさ」よりも「カジュアルな居心地の良い家庭的あったかさ」を選んだ。
「お客さんに来てもらうには話題性と低料金の設定」(食堂部の可知さん)が先決と考え、時代性をとらえ女性に人気のハーブガーデンを設けたりして料理や雰囲気とともにカジュアルさを演出したことで、人気は上り調子。列を作るほどだ。
料理はランチもディナーも、コースを取り入れたバイキングスタイル。オードブルやメーンディッシュをチョイスするまでは姿勢よく気取っていた客もバイキング形式のデセール、サラダ、ドリンクになるととたんになごやかになり、おしゃべりも多くなるという。
太田成正シェフは「おいしい料理は一年を四季に分けて考えると一番おいしい旬が欠落する。したがって一年を三シーズンに分けた食材を設定した料理を作る」との考え。さらに「太っ腹シェフのランチ」と銘打つだけあって、味以外にボリューム感にもこだわっている。
「とにかくほかのどこもやっていないことを考えることが必要。この発想のもと、一年間は順調にやってこれたが少しずつ似た業態が出はじめた。さらに一つ先に駒を進めて常にこれからの方向を探求しなければならない」と、洋食にこだわらずあらゆる繁盛店には視察に行く。ポイントは「これほど多くのお客さんを引きつけるものは何か」を探るためだそうだ。
秋の企画としては「ハーブ&スパイスの欧風料理とワインフェア」。ディナーのジョイフルバイキング(二八〇〇円)は、冷製料理一〇種と温製料理一〇種が食べ放題、さらにワイン飲み放題(一〇〇〇円)となる。
メニューのネーミングも「ダチョウの胸肉のショウガ風味」「マリネサーモンのディールソース」など、わかりやすくし、ヘルシー色を強め「エスペランス」でしか味わえないメニューを提供。太田さんの新メニューへの挑戦が続く。
「ホテルキャッスルプラザ」
オープンしたのが一七年前。「当時は最先端の都市型ホテルとして話題を集めたが名古屋にもホテルラッシュが続くうちに方向を絞りきれなくなった」と話す食堂部支配人の北村さん。
今後、ホテルのすみ分けは進んで行く一方だが、現在の中途半端な位置付けからの脱却が急がれる課題。
相変わらず外食マーケットが縮小している状況下で来客人数の確保が最大のポイント。同ホテルは地下街ユニモールに隣接していることもあり、昼は買い物客やOL、サラリーマンで混み合うが悩みは夜の集客。駅周辺の居酒屋に客を持っていかれるのが現状だ。
特にメーンダイニングのフレンチレストラン「ローズガーデン」は、フランス料理への逆風で客足は途絶えがち。同じフランス料理でもビストロ「ドファンドール」やパスタ専門の「ペスカトーレ」はカジュアルさがうけているようだ。
そこで考えたのが7月から始まった割引企画。フルコース食べ放題としフルコースを基本にした全一九品がどれでも食べ放題となる。さらに前日までに予約すると六〇〇〇円が五〇〇〇円になるというもの。
「お客さんの低価格志向は強まるばかり。もはやローズガーデンのような大型高級レストランが話題になる時代ではないのかもしれない。メーンダイニングをどんなかたちにしてゆくのかコンセプトを再構築し、リニューアルも視野に入れながら夜の集客を高めたい」(北村支配人)と、会社帰りのOLやサラリーマンを対象にリラックスして楽しめる料理づくり、雰囲気づくりを行う中で需要も望める形態を模索中だ。
「ホテルセンチュリーハイアット名古屋」
派手な販促活動は行わないとする「ホテルセンチュリーハイアット」は、駅のの中心街から少し離れた上品でシックな「邸宅」のたたずまいだ。レストランを邸宅の中の「ダイニングルーム」と位置づけ、洗練された中にもアットホームな雰囲気づくりをしている。
羽田野久雄料理長が心がけるのは、「ホテルなので客層は幅広い。ですからすべてのお客さんに八割の満足を」と、クラシックな基本をベースに時流を取り入れた料理づくり。堅苦しいイメージを払拭するため、デザートはビュッフェスタイルに、パンはテーブルを回って注文を聞くなど、きめの細かいサービスに付加価値を置いている。
「町場のレストランのスタンスに近く厨房からホールへ出てお客さんとコミュニケーションする」(羽田野さん)のをモットーに、配膳された直後のお客さんの素直な反応を一番大切な批評と受け止めている。
とはいえ、やはりホテルのレストランとして提供能力を持つのは当然なので、お客さんの要求を完璧に満足させなければならないと思っている。宣伝はしないが「料理そのものが広告塔」という考えのもと、品質の良い食材選びを心がける。
三ヵ月間行ったワインビュッフェが好調だったため、秋にはディナーコースに選べる「グラスワイン&バーセット」(一五〇〇円)を企画。話題になっているキャンティークラシコ(イタリア)、カッシェロデルディアブロシャルドネ(チリ)、マルゴー(ボルドー)の三種類をそろえた。
「次の企画として料理に合うワインではなく、ワインを全面に出してその銘柄に合う料理を考えてゆく」とのこと。「ダイニングルーム」への着実なリピーターが何よりの財産になる。