スペイン平和市場 アマゾンで生鮮品を提供 独自のデジタル化も
スペイン・マドリッドにある「メルカード・デ・ラ・パス(平和市場)」は1882年に創業した、市民の胃袋を支える重要な役割を果たす。16年から世界で唯一Amazonプライムを介して生鮮食品を提供することに成功している。取引は果物、食肉、鮮魚。マドリッド市内だけでなく30km圏内にも配送する。
日本でもスーパーでAmazonを使うところはあるが、市場ではない。オンラインで日持ちのしない鮮度品を売るのはとても難しい。注文してから1時間~1.5時間のうちに配送が完了する。スペインの他の市場もやろうとしたがみな失敗した。過去18ヵ月で6000以上の注文が入る。
ギジェルモ・デル・カンポ フェルナンド・シャウ氏が平和市場の責任者になって25年が経過する。40年に改修し、スペイン内戦が終結の年できた市場として「平和市場」と名付けられた。86年に市場労働者で協同組合を作り、彼らが市場を経営している。54店入店し、500人が働く。商品は6割が食品、2割がサービス、残りが飲食(バール)だ。「最後のリフォーム時にいろいろな業者が参加して楽しい市場に生まれ変わった」という。
ネット注文は、欲しい人がAmazonのプライムナウで注文する。注文が市場に入ると10人いるピッカーズ(ピックアップ担当者)が必要商品を店からピックアップする。それを真空パックに入れて市場に併設した冷蔵施設に移動し、Amazonが配達する。
このプロジェクトで一番難しいのは個々の店の賛同を得て参加させること。軌道に乗せるまでとても大変だった。営業時間は午前9時~午後8時まで(ネット注文は午前7時から可能)土曜午後と日曜は休み。収益の20%は市場の公共部分のリフォームに使う。
平和市場を利用する消費者は生活にかなり余裕のある人たちで、比較的教養も高い。年齢は35~52歳ぐらい。Amazonとの契約がいつまで続くか分からないためデジタル的な改良を加え、独自で「メルカード47」を立ち上げた。各店舗のデジタル化を実践し独自のネット販売も模索する。現時点でデジタルを介した売上げは全体の1割。1顧客が来場して使うのは約62ユーロ。Amazonだと69ユーロ(送料無料)。スペインでも1回に62ユーロの消費はかなり高額だ。
同市場ではクッキングデモ、オリーブオイルテイスティング、カクテル作りと市場の枠を超えて、コンサート、ファッションショーなども開催する。「市場はモノを売買するだけの場所ではなく、もう少しいろんな活動があっても良い。地域に根差した市場は消費の場だけでなくそれ以上のものを提供すべきだ」(同氏)と考えている。(江端哲也)