トップインタビュー 弁当総合商社・玉子屋 菅原勇継代表取締役
‐‐ランチのワンコイン(五〇〇円)市場はテークアウト弁当やCVS弁当に加えてレストランの低価格化もあって首都圏は特に激戦状態となっています。宅配弁当の「玉子屋」さんは港区、中央区を中心にした首都圏でクチコミだけでこの五年間に売上げを倍の二〇億円に伸ばしていますがその要因は何ですか。
菅原 ハード(機械)をどう取り入れるかです。私どもはこの宅配弁当屋に一五年前に参入しました。当時最後発だった私どもに先輩たちは「機械屋にだまされて……」と忠告してくれました。確かに機械を導入するということは初期投資が大変です。しかし、機械を導入して絶対においしいのならGOと投資、三~五年後には格段の差が付いてしまいました。「機械ができることは機械に任せて、味付けや盛りつけなど人間しかできないことは真心を込めてする」がモットーです。たたき上げの経営者はなかなか旧態依然の形から脱皮できませんね。
現在、一日二万二〇〇〇~二万三〇〇〇食を提供しています。一時間に六〇〇〇個、一分間に一〇〇個の弁当を仕上げます。一人当たりの生産性の高さは日本一、日本一は世界一と自負しています。
‐‐弁当屋になられたきっかけは何でしたか。
菅原 学校を卒業して銀行に勤めていましたが二四歳頃の時にやめまして、魚屋を始め、トンカツ屋、割烹と飲食店をやってみました。ところが売上げは良くてもだいたい決まっているし、雨が降ると人がこない。待っている商売は面白味がない。あるきっかけで弁当を作ってくれと注文がありまして、一回に三〇人分作って持っていける商売はメリットがあるなと気づきました。蒲田界隈のこの近辺は町工場が盛んで地元の弁当屋はその工場に納入していました。しかし、私はサラリーマン時代昼ご飯に大変苦労しましたので首都圏のサラリーマンを対象に兜町、銀座をターゲットにしました。価格もサラリーマンが月々支払える金額はせいぜい八〇〇〇円くらいということから四二〇円と五一五円の二種類にしています。しかも、飽きずにうまくて健康に良く安い。食材原価率は五〇%前後です。大口では三井造船が第一の顧客になっていただいてから弾みがつき、今日に至っています。
‐‐従業員管理がとてもユニークだと聞きました。
菅原 まずはお客さんありきですが、次は従業員ありきです。ハード武装するもう一つの理由は職場環境の改善です。飲食業は3Kと言われますが、機械化することによってできるだけ操業時間を短縮し、清潔な職場環境で働いてもらいたいということです。スタッフは正社員、パートあわせて一五〇人です。さきほど、日本一の生産性を誇ると話しましたが、良く働いてもらったら良く遊んでもらいたい。いくら仕事がきつくても「これだけ働いたらこれだけ飲める」という発想です。社員の内一〇人がゴルフ会員権を持っています。土・日は私を始め、毎週ゴルフです。海の家もあり、リフレッシュをしっかりするように社員教育しています。
給料も「この人の能力ならば、一流企業だったらどれくらい支払はなければならないか」が基準です。弁当屋ですが年収一〇〇〇万円台の人間もいます。人材をうまく安く使う気はありません。弁当屋といえどもプライドと自信を持って仕事をしていますし、従業員にもそうあって欲しいと望んでいるからです。弁当で社会貢献し、大企業に羨ましがられる「華麗なる中小企業」が会社の理念です。
‐‐これからの抱負をお聞かせ下さい。
菅原 来春は新卒六人の採用が決定しています。体力に自信のある体育会系です。優秀な人間もたくさん育っています。そこで、若い優秀な人たちを独立させたい。首都圏でどの地域が一番まずい弁当を食べているのか調査中です。味と価格には絶対の自信がありますからね。若い人のベンチャー企業を興したいという夢を応援してあげたいというのが私の夢です。
秋には強力な炊飯工場が稼働します。これで炊き込みご飯など、メニューのバラエティー化を一層進めることができ差別化を推進していきます。私どもに営業マンは一人もいません。お客様の手元に届く弁当が最大の営業マンです。一つ一つ気を抜くことなくサラリーマンの力となる弁当を作るために努力を続けたいと思います。
‐‐ありがとうございました。
社長には、菅原やすのり氏と言う建築工学博士でありながら世界中を旅して歌でメッセージを伝える歌手であり、ラジオのパーソナリティーも務めているという弟がいらっしゃる。やすのり氏は「都市はアスファルトだらけで自然に逆らっている、アジアの労働力を蝕んでいるのは日本」と言うように日本の行く末を憂えている。この弟さんに社長は「兄は金儲けがうまい」と非難されている。そのためだけではないが「兄として恥ずかしくない人生を送りたい」と企業家でありながらも社会性を第一にした経営方針を旨とする。しかし、「ガキ大将をやってないと人は使えない」と親分肌が見えかくれするとても素直な経営者である。
(文責・福島)