食品値上げ 10月、8500品超 「値上げ渋滞」に苦慮 価格転嫁と需要喚起、重要局面へ
10月の食品値上げは本紙調べで8500品を超え、単月での価格改定数は年内最多規模に達する見通しだ。大型カテゴリーのビール類が新規で値上げを実施するほか、コスト環境の厳しさを背景に再値上げ、再々値上げを行う業種も相次ぐ。製配販3層は10月へ向け値上げ交渉の真っ最中にあるが、過去にない品目数の多さから対応に苦慮。企業間の交渉や改定作業が滞る「値上げ渋滞」という言葉も出てきた。食品売価が一斉に上昇へ向かう中、市場では安価な小売PB商品が台頭し、NB商品が押されるケースも目立つ。食品界は適正な価格転嫁と並行し、値上げ後の買い控えや低価格商品との競争へいかに効果的な需要喚起策を投じるか。年内最大の重要な局面を迎えそうだ。(篠田博一)
9日現在、本紙の独自調査に基づく10月の食品値上げは、全カテゴリーで8567品目となった(家庭用・業務用、減量値上げ含む)。11月の値上げ分を加えると、今後2ヵ月間の価格改定数は9334品の未曽有の規模に達する。品目数が非公表のメーカーもあるため、実際にはさらに多くなることが確実だ。
10月はビール類やRTDが今回初の値上げを行うのをはじめ、小型PETや自販機製品含む飲料の価格改定も本格化。加工食品ではみりん・たれ類やFD製品、寒天、だしの素なども新規で値上げを行うほか、マヨネーズが昨年から3回目、畜肉加工品や乳製品、缶詰などが2回目の値上げに踏み切る。
現在、食品業界はこれら大規模な値上げ交渉を3層の間で進めている最中だが、「あまりにも多くの商品やカテゴリーに値上げが広がり、価格交渉や改定作業の遅れに苦慮」(大手卸)しているのが実情だ。
小売業への数千アイテムに及ぶ値上げ根拠の説明、商品マスタの価格登録業務の膨張、店頭ではプライスカードの貼り替え作業が追い付かず週の改定品目数を制限するなど3層ともに忙殺され、「通常の商談や販促、売場提案などの時間が取れず、適正な商売環境が崩れている」(同)といった弊害も発生している。
今回の値上げには小売業もおおむね理解を示すものの、「競合より先に上げたくない」スタンスは継続。それが交渉に時間を要する一因にもなっているが、改定日以降の価格補填(ほてん)は行わないと明言するメーカーもあり、卸は持ち出しが増えないよう早期の決着を図りたい意向だ。10月を前に、ビール類の駆け込み需要へ早めに対応したい思惑もある。それでも「アイテム数の多い酒類の値上げは、店頭では2~3週間ずれ込むか」(大手酒類卸)との見通しも聞かれ、時期を含む適切な価格転嫁は喫緊の課題となっている。
10月以降、値上げが消費へ及ぼす影響も業界の懸念材料だ。電気代などあらゆる生活コストが上昇する中、「コロナ禍の蓄えがあるとはいえ、所得が増えずに物の値段だけ上がるとなれば、消費の冷え込みは必ず起きる」(大手卸トップ)、「食品は必需品なので商売が半減することはないにしても、一時的な需要減退は避けられない」(他の卸トップ)との厳しい見方も相次ぐ。
実際、6月に10%値上げした即席麺の売上げが2~3割減になった卸もあり、嗜好品の菓子は買い控えで数量減が目立つなど、上期はカテゴリーによって売価上昇の影響が顕在化。そうした中、「価格凍結宣言」などでインパクトを出した小売PB商品への消費シフトが進み、その傾向は各チェーンへ拡大しているようだ。春夏定番売場ではNB商品のSKUが減らされたり、チラシ販促でも各企業のPB商品の訴求が増加したとされ、下期もそうした動きが広がっていく可能性もある。
このため10月以降の市場では、需要喚起への取組みが一段と重要性を増しそうだ。メーカーが今秋冬商戦に投じた新商品では、値上げ対策と思われる付加価値を高めたアイテムも少なくない。買い控えの影響を新需要の創出でどこまでカバーできるか、業界の知恵と努力が問われる局面だ。