タイで広がる廃食用油回収 航空燃料・液体せっけんなど原料に
炒め物や揚げ物などで使用済みの食用油(廃食用油)を回収し、航空燃料や液体せっけんなどの原料に活用する動きがタイで広がっている。タイの政府系製油・給油所運営のバンチャーク・コーポレーションは、昨年末から廃食用油の買い取りを始めたほか、チュラローンコーン大学では液体せっけんの開発にめどをつけた。このほかの民間企業も事業化に関心を示す。官民挙げての取組みが動き出そうとしている。
タイ工業省の試算によると、国内に無数にある屋台や飲食店、家庭などから排出される廃食用油は2022年には1億1500Lに達し、10年前に比べて2倍を超える大幅な伸びとなった。ところが、その多くは生活排水や道路の側溝に不法に投棄されているのが実情で、これが環境の悪化にもつながっていた。
ゲリラ豪雨による洪水の起こりやすい雨期には、地下に流れ込んだ雨水に油成分が溶け出して地表に浮上し、街の汚染や悪臭の原因にもなっていた。他の廃棄物と反応することで、温室効果のあるメタンガスの発生にもつながるという。不法投棄を防ぐための抜本的な対策が急がれていた。
バンチャーク・コーポレーションが昨年12月21日から始めた取組みは、国内にある44ヵ所のガソリンスタンド店頭で、廃食用油を有料で買い取るというものだ。無償とすれば市民の協力は得られないと判断し、あえて有償とすることにした。プロジェクト名は「バイオ・サーキュラー(循環)プロジェクト」。買い取った廃食用油にバイオエタノールを加えるなど特殊処理し、航空機用のジェット燃料によみがえらせるという計画だ。
植物油生産会社のタナチョーク・オイル・ライトと共同で設立した合弁新会社BSGFを通じて事業展開する。資本金は1000万バーツ(約3500万円)。バンチャーク側が51%出資した。BSGFは2億バーツを投じて生産工場を新設する。早ければ24年末までに、廃食用油から生産した再生航空燃料を出荷する計画だ。
廃食用油やバイオエタノールを原料とするなど二酸化炭素の排出量削減につながる「持続可能な航空燃料」はSAFと呼ばれ、タイでも政府が中心となって導入を加速させようとしている。国営のタイ石油公社PTTも、廃食用油を使った国内初のバイオディーゼル製造プラントを中部アユタヤ県で稼働させた実績があり、SAF市場への参入をいち早く表明した。他にも民間企業も事業化を検討している。
一方、廃食用油を原料とした液体せっけんの実用化に約3年をかけてめどをつけたのは、国立チュラローンコーン大学環境研究所のチーム。廃食用油にエタノールや水酸化カリウムなどを添加して熱を加え、良質な液体せっけんとすることに成功した。1L当たりの販売価格も100バーツと手頃な値段を実現した。廃食用油の回収ルートが存在しない地方の民間企業などに優先的に技術移転し、環境保全と地域興しにもつなげたい考えだ。
(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)