ビール消費国タイ、大きな転換期に 大手栄養ドリンク企業参入
東南アジアの主要なビール消費国タイで、新たなビール戦争が勃発している。きっかけとなったのは1月、大手栄養ドリンクメーカーのカラバオ・グループが市場参入を表明したこと。以来10ヵ月、生産ラインの準備も整い、11月上旬にはいよいよ本格販売を開始する。長らく、ブンロート・ブルワリーの「リオ」とタイ・ビバレッジの「チャーン」の両大衆向けビールに席巻されてきたタイのビール市場は、大きな転換期を迎えることになる。
水牛のマークでおなじみの栄養ドリンク「カラバオデーン」を製造販売するカラバオ・グループがタイのビール市場に参入すると明らかにしたのは1月下旬。2017年に中部チャイナート県に開設した酒造用工場に新たに30億バーツ(約125億円)を投じ、ビールの生産ラインを増設するとしたのだ。年間の生産能力は4億L。当面は半分程度の稼働率を想定している。
工場を運営するのは子会社のタワンデーン1999。同工場ではこれまで、ウイスキーや焼酎などを生産していた。消費者の好みの多様化を受けビール市場でも勝負できると読み、参入に踏み切った。来年中にシェア(市場占有率)10%を確保することが目標。向こう5年のうちに20%に引き上げたいとする。
製造するビールは大きく二つ。リオやチャーンと同価格帯の大衆向けビール「カラバオ」と、中高価格帯のクラフト風ビール「タワンデーン」だ。さらに、カラバオにはラガービールと黒ビールの2種類を用意。タワンデーンにはワイゼンビールやロゼビールなどを取り揃えた。
カラバオ・グループは栄養ドリンクのほか、大規模レストランのタワンデーンも展開。共同創業者はタイの人気バンド「カラバオ」のメンバーでもある。こうした知名度もあって、これまで他の資本が参入をちゅうちょしていたビール市場に進出することができた。
だが先行するライバル社も指をくわえて見ているだけではない。シンハとリオの二つのブランドを持つ老舗企業のブンロート・ブルワリーは、9月に新製品の「89CALS」を投入するなど防戦に乗り出す。販促キャンペーンにも力を入れる。
大手財閥TCCグループ傘下のタイ・ビバレッジは10月からの新年度に、新たに70億バーツを投じて体制を強化。配送センターを整備するほか、9月にはカンボジアにビール事業会社の「チャーンビア・カンボジア」も設立。国外進出も進める。ファストフード店や日本食レストランも展開しており、資本分散することでリスク回避する戦術を取る。19年に発売したものの新型コロナで販促活動ができずにいた麦芽100%の低温ろ過ビール「チャーン・コールドブリュー」のてこ入れも行う。
タイのビール市場は1933年にブンロート社が初の国産ビールとしてシンハを生産開始。長らく独占状態にあったが、90年代になって大衆向けの格安なチャーンが販売されると爆発的ヒットに。このためブンロート社が同価格帯のリオを投じ、以後はリオとチャーンが30~40%とシェアを分け合う状態が続いていた。日本産も含め、タイでは外国産ビールはほとんどシェアを確保できていない。
(バンコク=ジャーナリスト・小堀晋一)