忘れられぬ味(15) 紀文食品社長・保芦将人 チーちくの開発に

統計・分析 総合 1997.11.19 8292号 2面

元来、おいしいものには、目がない方で、生まれも育ちもトコトン食にこだわる環境でした。おまけに、社会人になってから現在に至るまで、いつもいかにお客様にオイシイと喜んでいただける商品を提供できるか考え続けて、四〇年近くになります。時にはこんな組み合わせをしてみたら?とか、こんな食べ方をしてみたら?とか、とにかく、自分でもあきれるような、ないしは思い出すと恥ずかしくなるようなモノもあります。

酸味のあるリンゴのスライスしたものにカマンベールチーズをはさんで、それで一杯やる、ということに凝ったことがありました。リンゴの酸味の具合とか、カマンベールチーズの吟味だとかいろいろ楽しみながら、グラスをかたむけたものでした。これが後で大いに役に立つとは、その頃はもちろん夢にも考えてもいませんでした。

今、お客様に大変ご好評いただいています“チーちく”の誕生にこの時の経験が生かされました。すり身を焼き上げたものにリング状にカマンベールチーズを入れたものです。商品開発のスタッフに私のこだわりをぶつけたものですから試作に試作を重ね、その数はおおよそ一〇〇種に及びました。

後日、どこかの取材で担当者は“何回も投げ出したくなった”と当時の苦労を語っていたようです。

チーちくという商品についてはこれ以外に生産技術などでさまざまなエピソードを残しました。結果として、工場のメンバーも商品開発スタッフもこの開発にのめり込み、苦しみと喜びを分かち合い、新しい商品開発の姿が自ら浮かび上がってきました。

こうなるとシメタもので営業は大変な自信を持ってお得意様に商品をお薦めしました。お得意様も当社の考え方をご理解いただき、ていねいに拡販いただいておりまして感謝に堪えません。

この経験をいかしてもっとわれわれの仕事のしかたを改革し、みなさまの日頃のご愛顧にお応えすることを肝に銘じております。

だいぶ、手前味噌なことを書かせていただきましたが、“忘れられない味”がつい商品開発にまでいってしまうのは、職業病ですね、完全に。

((株)紀文食品社長)

日本食糧新聞の第8292号(1997年11月19日付)の紙面

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