忘れられぬ味(60)テンヨ武田・武田與信・代表取締役会長「家庭料理と食文化」

調味 連載 2001.08.01 8878号 2面

私共夫婦は、外国の家庭料理に大変興味をもっており、二~三年に一度は外国の家庭を訪問しております。そんな折り、あるきっかけでデンマークの家庭を訪れた時のことであります。

北欧の国デンマークは、周囲三方を海に囲まれ、穀物と牧畜、魚貝類の豊富な国です。デンマークの主食は「スモーブロー」という独特のもので、一般に言うオープンサンドイッチに似たものです。つまり薄切りにしたパンの上に自分で好みの具をのせ、ナイフ、フォークで食べるのです。この料理は具に特徴があり、各家庭によってそれぞれ工夫されているようです。私はレバーペーストやニシンの酢漬けをのせるのが最高だと思いました。また、豚肉は、日本へ多量に輸出していますが、この豚肉を大きな切り身のままオーブンでじっくり焼き、薄くスライスした物をのせるのも美味しい。

そして、この料理にかかせないものが「アクアビット」というウオツカに似た酒です。これを、二分の一オンスのグラスで一気に飲み、あとは水がわりにビールで流し込みます。毎日夕食はこのスモーブローで、具を変えて変化をつけています。ちょうど日本の米食が基本で副食を変えるようなものです。私は家庭料理というものは、毎日のことなので、どう美味しく、楽しく食べるか工夫して飽きないようにするものだと思います。そのためには、おふくろの味や、秘伝の料理、時には新しい食材への挑戦もあるでしょう。このデニッシュ・ディナーは私にとりまして思い出深い美味しい味の一つになりました。

帰国後もこの味に挑戦するためにレバーペーストの缶詰や、ニシンの酢漬けのびん詰め、アクアビットを買って帰りましたが、あの旨さは再現できませんでした。やはり、その国の美味しい物は、その国で食べるのが一番と感じました。日本で再現できなかったあの味への思いは増幅し平成10年、訪問先の息子の結婚祝いにかこつけて、ご馳走になりに行ってきました。

デンマークでは食事の支度や、後片付けは家族全員で行います。私は洗い物を受け持ち、帰国後も「デンマーク式」と言って続けています。週に二回父親が刈った芝生の上にテーブルを出し、野鳥の声を聞きながら、白夜の中でのスモーブローの味、レバーペーストとニシンの味を再度楽しんで来ました。デニッシュの家庭料理は、何回食べても良し、また食べたい、そんな味でした。

((株)テンヨ武田代表取締役会長)

日本食糧新聞の第8878号(2001年8月1日付)の紙面

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