緊急事態宣言・東京飲食店の本音 時短と給付で悲喜こもごも テレワーク7割実施に懸念

外食 インタビュー 2021.01.18 12172号 01面

 緊急事態宣言が発令され、飲食店に営業時間の短縮要請が突きつけられたが、店舗一律の協力金に賛否が渦巻いている。表向きは「全然足りない」という不満が目立つが、水面下では「黙って快諾」というニンマリも少なくない。まさに悲喜こもごも。コロナ禍の中心地・東京都内の個人店主4人に胸中を聞いた。(外食レストラン新聞編集部)

 〈座談会メンバー〉

 A氏:新宿歌舞伎町で居酒屋2店経営

 B氏:銀座で和食店経営、昨年末退店

 C氏:中野区で昼は定食、夜は居酒屋

 D氏:東京都下の自宅兼店舗で居酒屋

 ●人出は都心から郊外へ

 –街の様子と店の状況は。

 A:歌舞伎町はコロナの巣窟と恐れられた最悪の時期から回復基調だったが、昨年11月末の時短要請(東京都)以降、また悪くなり始め、年末年始の人出は前年の3分の1ほどだった。歩いているのはコロナを恐れない若者ばかり。

 B:おそらく銀座は日本で一番悪い。去年2月からインバウンドが消滅して、4月から社用族が激減し、年末商戦は閑古鳥だった。先行きが全く見えない。

 C:中野の周辺も人出は通常に戻らず、通常の半分ぐらい。

 D:郊外なので駅前の人出は通勤時間以外、それほど減っていない。時間帯によっては、増えているような気もする。スーパーは、普段のまま。テレワークが増えているせいか。

 ●時短要請の反応もさまざま

 A:台風や大雪の日並みの売上げが続いている。5人以上の忘年会は皆無だったし、新年会もゼロ。歓送迎会も全く期待できない。

 C:去年の秋は客が戻りはじめたのに12月に入り減り出した。日中売上げの半分はアルバイトの人件費で消える。夜は一人で営業しているが集客ゼロの日もたまにある。

 B:あまりにも大赤字なので年末で退店した。つぶれた店は周りに多い。ビルの外看板が輝いていても、中に入ったら店看板の半分ぐらい消えているのが銀座の実態。

 D:郊外の住宅地なので、テレワークの会社員が来店するようになって、むしろ売上げは上向き。営業時間が短くなると多少減るが、それでもコロナ前の売上げは維持している。

 A:年末年始、歌舞伎町には午後10時の閉店要請に従わない店が半数近くあった。そんな店が午後10時以降ににぎわっているのを見ると本当に悔しかった。

 B:銀座のクラブでも時短要請に応じない店が少なくなかった。4~5月に店を閉めたら女の子が辞めてしまい、客が離れてしまったのがトラウマになっている。

 C:暗くなると人がいなくなる。これまでは大みそかや元日も営業していたが、今年は1週間近く休んだ。

 ●固定費の差で明暗

 –協力支援金の受給は。

 A:歌舞伎町の2店舗のうち月商600万円の店は家賃が140万円、人件費や光熱費を入れると月の固定費は300万円を軽く超える。超稼ぎ時の年末年始に2店舗とも午後10時で閉店して一日2万円、計4万円の協力金では焼け石に水だった。でも緊急事態宣言後からは2店で1日12万円なので助かる。

 B:年末に閉めた銀座の店の家賃は170万円だった。家賃が高い店や従業員が多い店は、この程度の支援金では全然足りない。接待需要が無くなり、ホステスの同伴やアフターが無くなり、赤字が9ヵ月も続き、大家に家賃交渉を拒否されて万事窮した。

 C:持続化給付金で100万円、4月から4回の時短協力金で175万円、申請前だが年末年始の協力金で84万円、2回目の緊急事態宣言で186万円。1年間で合計545万円もらうことになり、協力金だけで去年の年収を超える。時短営業でも店は午後8時まで営業しているので売上げもそこそこ。仕事が減り生活は楽になった。

 D:これまでは年末年始にがんばっても売上げは3万円程度だった。今年はずっと休んだのに一日に4万円ずつ協力金がもらえる。しかも今度は1日6万円に増える。2月8日以降も時短要請を延長してほしいのが本音。

 ●申請できない店も多々

 A:TVだと怒ったり困ったりしている店主ばかり出てくるので、外食が狙い撃ちにされているように見えるが、顔で泣いて心で笑っている店主も少なくない。

 B:とある焼き鳥屋の高齢店主が、協力金の申請方法が複雑すぎる、代書屋に頼んだら忙しくて断られたと嘆いていた。申請を諦めて営業を続けるそうだ。

 D:確かに。周りにも結構いる。ネットどころかFAXすらない店もある。規模が小さい店が全て恩恵を受けているわけではない。ITに弱い高齢者の個人店には同情する。

 A:酒屋が歌舞伎町はナイト系を除いて9割以上が午後8時で閉店すると言っていた。4万円の時は半分近くが従わなかったのに、2万円の違いでこれだけ変わるとは。金の力は大きい。閑散期の2月という背景もある。

 C:協力金6万円は真水だから12万円ほどの売上げに相当する。売上げが8割減少しても月商500万円ぐらいまでの店なら耐えられるのでは。

 D:うちは月商が100万円ぐらいなので毎月の手取りは30万~40万円程度。なので今回は6日で1ヵ月分の手取りとなる。

 A:かたや酒類や食材の卸業者には協力支援が弱い。当事者の話を聞いていると悲惨だ。

 ●意欲あれば千載一遇の好機

 –今後への思いは。

 A:一日も早い収束を願う。時短営業は苦しいが、テレワーク7割も苦しい。滞在人口の多い都市部はむしろ後者が深刻だ。人出が戻れば日中に努力できる余地もある。

 C:新宿は3割ぐらいの店が退店するらしいので、空き物件を調べてみる。家賃次第で移転も視野にある。事業意欲のある店主にとっては千載一遇の好機だろう。

 D:税金で助けてもらった、というよりも臨時収入を得たので、収束後に半額キャンペーンをやる。でないと罪悪感が拭えない。

 B:よい条件があったので転職する。再起しても家賃の高い立地はこりごり。

 A:とにかく皆がコロナに感染しないことを祈るのみだな。

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