高度成長する惣菜・デリ 東武池袋店のMD作戦

1992.09.07 11号 10面

東京・池袋駅は一日の乗降客が三〇〇万人を超える全国第二位の巨大ターミナルである。その東口には長らく「日本一の百貨店」と言われてきた西武池袋店。そして西口には今年6月10日、“日本一の敷地面積”の巨大百貨店に生まれ変わった東武池袋店がある。池袋西口地区は近年、急速に地域開発が進み、その最後の仕上げとして「新生東武百貨店」が誕生したのである。池袋駅周辺は、人口増加率日本一のベッドタウン「埼玉県」からのキーステーションというだけあって、銀座、渋谷、新宿等とは異なった大衆消費行動が見られる。特に、駅コンコースに直接つながる両百貨店の食料品売場は、夕方近くから閉店まで“夕飯のおかず”を求めて、生鮮品コーナー、惣菜コーナーともにかなりの混み具合だ。今回は「日本一大きい東武池袋店」の惣菜・デリコーナーを例に、大衆大型百貨店のフードマーチャンダイジングの在り方を考えてみることにしよう。

日本一である食品館の売場面積は本館一四〇〇坪、プラザ館一九〇〇坪の合計三三〇〇坪。同売場年商四五〇億円が見込まれる巨大フードフロアだ。ストアコンセプト“グッドデパートメント”に基づいて、食品館でも「品揃え」「サービス」「店構え」を三大重点ポイントとしている。本館とプラザ館の間に地下鉄有楽町線のコンコースをはさんでいるので、横の連動よりも地下一階と地下二階の縦フロアの回遊性に留意した売場づくりを行っている。

本館地下二階は美味工房、同地下一階は和洋菓子。プラザ館地下二階は新鮮市場、同地下一階は酒とグルメギフトという四つのフロア構成となっている。

惣菜売場は本館地下二階に九三店舗、プラザ館地下二階に七四店舗。その内約七割の店舗がインストア加工による「できたて惣菜」を提供している。天ぷら・フライ類や焼きもの、煮ものといった和惣菜はもちろん、点心類をはじめとした中華惣菜、手づくりハム・ソーセージやイタメシなどかなり豊富な品揃えである。しかも同じカテゴリーの惣菜・デリでも二~三ブランドのテナントが出店しており、消費者の多様なニーズに応えたフルマーチャンダイジングを採用している。

本館のコンセプトは素材や製法にこだわる名品・名産・老舗のショップが並ぶ“こだわりと老舗のグルメ”。ターゲットは高校生以上の子供を持つ成熟家庭。一方、プラザ館はボリューム館や値頃感を追求した“フレッシュグルメ”をコンセプトにし、小中学生の子供がいる若い家庭をターゲットに設定している。

惣菜・デリは毎日の食卓にのぼるデイリーユースの商品だけに、プライスレベルやクォリティ・グレードだけでディスプレイすることは好ましくない。なぜなら、消費者の側から考えると、ある時は廉価な肉を多く、またある時は高級肉を少しだけ、という具合にTPOに応じて買い分けるケースが多いためである。そう考えれば、本館とプラザ館とのMDコンセプトが明確に区別されている方が、消費者の日常的ニーズを吸収しやすいということができる。

同店惣菜売場のもう一つの特徴は、都内百貨店でも人気の高いテナントを数多く配置していることである。「神戸コロッケ」、「マダムリー」の中華惣菜、「松露の玉子焼」、「KYK」のとんかつ惣菜、「サンマルコ」のカレー、「御座候」の今川焼、「藤兵衛」の魚惣菜、「ローゼンハイム」のデリカテッセンなど人気の惣菜デリショップがズラリと顔を並べている。

中でも注目されるのが、プラザ館のコアショップに位置付けられた「FLOプレステージ」。同店はフランス・パリで人気の高い惣菜・デリショップで、一九六八年に誕生して以来、厳選素材と伝統的なフランス料理の調理方法により、「本格的な味を手軽に家庭でも」を実現させた定評のある店である。東武池袋店にお目見えした「FLOプレステージ」は物販とイートインの複合業態で日本人の標準的家庭をターゲットに“手軽なパリの味”を訴求している。

以上の東武池袋店の例からも、今後の大衆大型百貨店の惣菜売場には、実にオーソドックスなコンセプトであるが、消費者の日常的食シーンを満たすアイテム、価格帯をいかに幅広く品揃えするかが基本であると言える。百貨店でいう「惣菜の高級化」とは、高額・有名ブランドや希少価値の高い銘品・珍品を品揃えすることではなく、むしろ、日常的メニューについて「調理の省力化」「素材の鮮度」「できたての美味」といった要素を満たした惣菜・デリをいかに丁寧に清潔に提供できるかに尽きるといえよう。

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