低価格時代の外食・飲食店 「つぼ八」 質のこだわりに評価

1997.02.03 120号 4面

平成8年12月末現在、直営四〇店、FC五〇〇店合わせて五四〇店舗。売上高は平成8年9月期決算で五八〇億円(前年比約三%増)。

つぼ八は村さ来と並んで、八〇年代の“ニュー居酒屋ブーム”の旗手として、活力のあった居酒屋チェーンだったが、ここ数年は関係ジャーナリズムに登場することも少なく、スタティックな状況が続いている。

親会社伊藤萬の不正取引や投機の失敗による企業解散、社長の交代など、スキャンダラスな出来事で、ひたすらに自重し水面下でのチェーンビジネスに甘んじているという印象だ。

「つぼ八は元気がないといわれますが、ちゃんとやるべきことはやっているんですよ。FC展開ですから、一店一店にクオリティーがあって、事業として成り立っていなければならない。マスコミ受けを狙ってハデなことをしなくても着実にチェーンビジネスを展開していく。要は客が満足し、店が儲かるビジネスを追求するということです」(常務取締役本部長野村耕作氏)

つぼ八は、昭和48年3月、創業者の石井誠二氏が札幌の郊外琴似で、炉端スタイルの八坪の店を出したのがその始まりで、50年の後半には道内および東北エリアで一〇〇店舗以上を出店するに至った。

そして、57年4月にナショナルチェーン化を目指して、伊藤萬と共同出資で「(株)つぼ八」を設立、石井氏が社長に就任した。

大資本住友グループが後ろ盾の伊藤萬と個人創業の居酒屋ビジネスがジョイントしたことで、当時は大きな話題になった。

しかし、その後経営の面では水と油の関係で、エリートぞろいの伊藤萬役員とたたき上げ現場主義の石井氏とは相いれず、60年9月、北海道つぼ八を吸収合併後、翌年6月の増資(五億円)を経て、石井氏は追われることになった。

ビジネスはドライだ。己の器量を過信したばかりに、大資本の論理に翻弄されて、創業者は一族郎党とともに野に下ることになったのだ。

現在の石井氏は、東京・大田区千束で地域密着の居酒屋「八百八町」を経営し、チェーン化に新たな意欲を燃やしている。

余談だが、つぼ八のライバルだった村さ来の創業者清宮勝一氏も、現在は経営権を委譲し、都内でカラオケスタジオを経営しているとのことだ。

時は移り変わり、人の心も変わる。攻め、拡大一本ヤリのバブル時代から、現在はリストラと収益第一主義の時代。

つぼ八もこうした時代の流れに沿っての堅実経営に徹している。

居酒屋ビジネスも年々経営環境が厳しくなってきている。新旧合わせてのチェーンが乱立、いかに客数を確保するかが大きな課題だ。

プロの料理人のいる店、盛業店で個性の主張のある店を別にすれば、居酒屋チェーンは低価格志向だが、どこもメニューが似ていると、客に飽きられてきている面もある。

居酒屋はすでにニュー居酒屋時代で、単に飲ませる店から「おかず」中心の食べさせる運営形態に移行している。

メニュー政策で他チェーンとどう差別化し、特色を打ち出していくかが、不可欠なテーマだ。

つぼ八独自のバイイング機能を武器に、海外からも質の高い食材を確保している。冷凍物は最小限に抑え、チルドを多用する。

とくに魚介類は産地直結の素材が売りだ。日経レストラン九二年2月号の店舗リサーチによると、ライバルチェーンと比較して「おいしい」「手作り感がある」「安い」で大きな評価を得ており、素材、料理の質の高さを裏付けている。

FC展開は自己物件(四〇坪)で総額五〇〇〇万円前後の投資で、月商一〇〇〇万円以上を標準としているが、粗利六二%、純益一八%、資本回収は二年前後。FC契約は五年。

チェーン展開は北海道、関東、関西の三つのブロックを中心に推進しているが、組織の住友、保守性の強い住友グループの飲食ビジネスだけに、店舗展開は年間一〇~二〇店とスローテンポだ。

九七年度内にはトータルで六〇〇店体制を目標にしているが、現在の状況では一、二年ずれ込みそうだ。

◆会社概要

企業名/(株)つぼ八▽チェーンブランド/「つぼ八」▽創業/昭和48年3月▽会社設立/昭和57年4月▽本社所在地/東京都台東区東上野五‐二四‐八(Tel03・3843・9295)▽資本金/五億円▽代表取締役社長/大島勝▽従業員数/一二〇〇人(パート社員含む)▽事業内容/居酒屋チェーン(FC)の全国展開、食品加工・販売▽出店数/直営四〇店、FC四八三店、計五二三店(九六年9月期)▽売上高/五七〇億円(前年比二・四%増)

好不況に左右されない居酒屋ビジネスは、他の業態に比べ安定している。しかし、チェーンビジネスは低価格志向だが、個性がなく、メニューも似たり寄ったりで、画一的という見方もある。他社とどう差別化を図っていくかは重要な課題だが、このビジネスもチェーン化が進んできており、年々競合が激化してきている。つぼ八と白木屋(モンテローザ)は、かつてはフランチャイザーとフランチャイジーの関係にあったが、現在は完全なライバル関係だ。しかし、この両者はライバル関係といっても、つぼ八は一業態にこだわった堅実経営のチェーン(FC)展開、一方のモンテローザは本体の白木屋を軸にして業態の多角化を進めており、しかも直営オンリーで年間六〇~一〇〇店以上の大量出店を行っている。チェーンビジネスであるだけに、チェーンスケールを拡大するのは当然のことだが、しかし、投資が過大になれば、経営を圧迫する恐れも出てくる。とくに、既存店の売上げがダウンすれば、事態の先行きは見えてくる。今後の推移が注目されるところだ。

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