飲食店成功の知恵(126)業種編 スパゲティ専門店
最近のイタリアンブームに乗って、再びスパゲティが脚光を浴びている。かつて、和風スパゲティのブームによって日本人のスパゲティ観が変わったといわれたが、今はそれに匹敵する、いやそれ以上のブームだともいわれている。
そこで当然、スパゲティやスパゲティを中心にしたパスタを看板にするお店が増えてきているわけだが、私はあえて、ブームには必ず落とし穴があるということを指摘しておきたい。
まず考えなければならないのは、イタリアンブームといってもそれは、かなり日本的にアレンジされたものだということだ。たしかに、イタリアンだからスパゲティ、パスタという流れにはなるのだが、実際にイタリアンレストランで人気になっているのは、パスタが主役のコースである。本来イタリアンではパスタはあくまでも脇役であり、主菜は肉や魚の料理なのだが、日本ではそうはなっていない。
もちろん、ブームの主役である若い人たちにとっては、本格的なコース料理などでは客単価が高すぎるということがあるのだが、もっと大きな背景があることを忘れてはいけない。それは、日本人にとってパスタはご飯代わりだということだ。また、今の若い人たちにとっては、ご飯代わりであると同時に、お酒の肴でもある。そして、このお酒とパスタという組み合わせこそが、今のブームを支えているコアなのだ。
つまり、スパゲティ専門店として成功するためには、その専門性を強く打ち出す必要があるということになる。ところが、最近の新しいお店を見ていると、イタリアンレストラン志向のお店が多い。ディナーとして考えると、パスタだけではいかにも寂しい。また、客単価を稼ぎたいという思惑も当然ある。そこで、あれもこれもと品ぞろえを広げてしまうのだが、そういうお店が失敗しやすい。なぜなら、それでは単なる何でも屋でしかないからだ。
スパゲティなどのパスタの商品としての最大のメリットは、原価率の低さである。売り値にもよるが、大体二〇%台後半の範囲で収まってしまう。しかも、麺と具の組み合わせで簡単にメニューバリエーションを増やすことができるし、オリジナルメニューもつくりやすい。そこにむやみに料理メニューを加えたら、原価率をアップさせるだけだし、材料ロスも出やすくなるだけである。いい例が喫茶店で、客単価ほしさにフードメニューを導入して失敗するというのと似ているともいえる。
スパゲティ専門店として成功するにはまず、少数材料多品目メニューの代表選手としてのメリットを、最大限に生かすことが基本になる。それなら私は、和風メニューの充実によって個性を出す方が面白いと思う。言い換えれば、ご飯代わりニーズの取り込みということである。
お酒の肴としてのニーズに絞り込むなら、イタリアンのイメージを追求することになるが、メニューとしてはあくまで専門店にこだわるべきである。パスタ以外は簡単に作れ、原価のかからない前菜程度で十分。その代わり、手ごろな価格でおいしいワインやビール、カクテルを充実させ、ワインはグラスでも提供するようにする。
パスタ類は、肴として楽しむわけだから、グループ客が食べやすいショートパスタを取り入れたり、麺の割合を減らして具を増やす必要もある。他の料理に手を出さない代わりに、デザートやサラダ類に力を入れることも大切である。
ちなみに、今や一〇〇%デュラムセモリナのパスタを使うこととゆで上げで提供することなど、専門店として基本でしかない。
(フードサービスコンサルタントグループ チーフコンサルタント 宇井義行)