新店ウォッチング:ハンバーガーチェーンA&W「城山ヒルズ店」
A&Wといっても、わが国ではほとんどなじみはないが、米国ではマクドナルド、バーガーキングに次ぐ世界第三位のハンバーガーチェーンである。現在全米に約九〇〇店舗をはじめ、世界一五ヵ国におよそ一六〇〇店舗を展開しており、わが国でも一九六三年から沖縄に進出し一七店舗を展開しているが、首都圏出店は今回が初めて。受け皿である日本企業とライセンス契約を結び、全国展開を目指すとのことだ。すでに大森ベルポートへの二号店出店が決まっており、年内に五店舗、以降はフランチャイズで展開する予定という。
今回出店した「城山ヒルズ」は大規模なオフィスビルである。一階エントランスの広いロビーが吹き抜けになっており、そのロビーを見下ろすかたちで二階の通路が取り囲んでいる。「A&W城山ヒルズ店」はその二階通路の一隅にあるのだが、このビルには正面入口を通らずに直接二階へ上がるアプローチがあり、同店はその二階入口から建物に入ったすぐ脇に位置している。
一見すると「なぜこんな場所に?」と驚くようなロケーションなのだが、客席に座って眺める目の前の通路は人通りが絶えない。テナントの性格上、通行者は外国人も多く、実際、筆者が訪れた一時間ほどの間にも、同店を利用したお客の何割かは外国人であった。
店舗は実質上カウンターだけのテークアウト店であり、客席は共用スペースの一角を植栽で仕切っただけの簡単なものだ。
しかし、見るべきもののひとつは、この客席のデザインである。円テーブルが八卓で計二二席、二人掛けのボックスが三卓で、合計二八席というコンパクトなレイアウトだが、例えばイスの彩色はテーマカラーでもあるオレンジ(というより朱色)に黒、アイボリー、そしてグリーンのパイピングという目を見張るような配色である。これに木目の化粧板やクロームの金物を組み合わせた客席はポップで楽しく、古き良き時代のアメリカを感じさせる。
商品的にはオーソドックスなバーガー類がほとんどで、さほど目新しいものはないが、サイドオーダーの「オニオンリング」は絶品だ。食べるとき手指が汚れるのが難点だが、FFS業態でも、まだまだ安価な材料で気の利いた商品が作れるという見本だろう。
本国でのA&Wの最大の売り物は「ルートビア」であるが、これをどのように売り込んでいけるかが、わが国でも同チェーンの展開のカギになると思われる。
◆店舗データ
A&W(エイ・アンド・ダブリュ)城山ヒルズ店(東京都港区虎ノ門四丁目三-一、城山JT森ビル二F、電話03・5405・2939)営業時間=平日午前8時~午後8時、土曜午前9時~午後6時、日・祝日は休み、店舗面積=三三㎡、客席数=二八席、オープン=一九九八年2月19日
◆取材者の視点
米国の大手ハンバーガーチェーンであるA&Wが、2月にひっそりと都内でオープンしていた。
新聞発表も行われており「ひっそりと」などとは失礼かも知れないが、大手チェーンの都心進出にしては、さほど話題に上らなかった理由は、この立地のせいもあろう。
A&Wが今回出店した「城山ヒルズ」とは、六本木の「アークヒルズ」を手がけた森ビルが展開する戦略的なオフィス・コンプレックス(複合施設)で、入居しているのも外資系金融やテレビ東京、コナミ、といった情報通信関連のサービス業企業ばかりだ。
施設の下層階には、メーカー系の飲酒店や宴会対応型の新業態店、ベーカリーなどのほか、小型のドラッグストアやスポーツクラブなども入居している。
ビルの性格上、高単価業態が多く、ファストフード(FFS)の施設内ニーズは意外と高いかも知れないが、営業時間を見ても分かるとおり祝祭日は閉店である。またテナントの多くが外資系という環境からして土曜も開店休業状態ではないのだろうか。
一号店の戦略的な意味合いは不明だが、計画中の地下鉄南北線東六本木駅から日比谷線神谷町駅を中心とするエリアは、今後都心の新しいビジネス街として発展する立地ではあるにせよ、現状はFFS店舗が出店して華々しい業績を上げられるロケーションではないと思われる。5月出店の二号店の動向に期待したい。
もうひとつ気になるのは「A&W」という店名だ。「マクダネルズ」が日本上陸の際に戦略的に「マクドナルド」と表記したように、日本人になじみやすく発音しやすいブランド名を冠する必要はないだろうか。
◆筆者紹介◆商業環境研究所・入江直之=店舗プロデューサーとして数多くの企画、運営を手がけた後、SCの企画業務などを経て、商業環境研究所を設立し独立。「情報化ではなく、情報活用を」をテーマに、飲食店のみならず流通サービス業全般の活性化・情報化支援などを幅広く手がける。