料理の鬼人:私のスパルタ教育法、「リストランテ文流」近藤総料理長

1999.05.03 177号 5面

開店以来二〇年以上、イタリア料理の魅力を伝え続けている「リストランテ文流」では、何人もの新人が修業を積み、そして独り立ちしていった。この文流の総料理長である近藤さんは、これらの新人とどう接してきたのだろうか。

近藤さんが新人と接する際に心掛けているのは、ハードルを高くしてしまわないようにすること。近藤さんは一般向けの料理講習会を開いているのだが、そこで、自分が当たり前と思っていることが、実は「普通の人は知らないんだ」と気づいたという。

「だから、どんな新人も『ゼロから始めている』という認識を持って、接しなければいけないんだよ」

特に大切なことは、新人に「やる気」をどう持たせるか。昔と違い、今はただしかるだけではダメで、同じくらいほめることも必要という。そして怒ったままにせず、少し時間をおいてから、どうしてそうなったのかをケアしている。

「昔からいるスタッフには、『やわらかすぎますよ』と言われるようになった」と近藤さん。若いころは、自分にも他人にも厳しくしていたが、今は自分に厳しくできなくなってきたために、他人にだけ厳しくすることはできない。そして、この年齢になって許すことを覚えたからだろうと、自己分析する。

「でも料理に手を抜くことは言語道断。それは、今も昔と少しも変わらず厳しくしているよ」

では、近藤さんの考える、新人に必要な心構えとはどういったものなのだろうか。

「料理人は、常に自分に投資をするべき。『仕事は仕事、プライベートはプライベート』と分けるのはよくないね。それでは一人前になれないよ。もちろん息抜きは必要だけど」

特に、日本人にとって「初めての味」が多いイタリア料理では、食べ歩きが直接、自己投資につながると近藤さんは考える。

日本とは異なった生活習慣から生まれたイタリア料理。そのため、日本人には思いもつかないような料理というものも当然ある。

「しかし、そういったイタリアの食文化を私たちは否定できないし、しちゃいけないんだよ。肯定して、一度自分の中に置いてみて、そして学ぶ。どちらが正しいかではなく、どちらも正しいと認めること。それが必要なんだ」

人間性表れる料理をつくる

肯定することで自分の幅が広がり、「客に喜ばれる料理は?」と取捨選択できるようになるのだ。

そして、ただ料理を作れるというだけではなく、客に「おいしい」と言わせ、料理を通して相手に気持ちが伝わるようにする。

「『どんな人が作ったのか?』と客が興味を持つような料理を作る。それには、どう生活するかという人間づくりも必要。人間的なものも料理で表現されますからね」

先輩の仕事を“嗅ぐ”観察力

さらに、料理人に大切なのは観察力。特に新人は、自分の仕事をこなしながら、どうやって先輩の様子を見るかが重要となってくる。分量や作り方はレシピを見れば分かるが、レシピに書いていない部分にこそ違いが出る。その違いは何であるのかと、先輩の仕事を見て答えを見つけるのだ。

しかし、今は手取り足取りの指導が当然となってきているためか、自分から質問してくる子がいなくなったと近藤さんは嘆く。

「昔は先輩に一つ聞くと一〇返ってきて、それがとても勉強になったのにね」

同時に、感受性、好奇心、探求心も持ち合わせていなければ、いい料理人にはなれない。そのためにも、普段から「欲」を持ち、とにかく自分自身を磨き、仕事を通して自己を形成するのだという。

料理の段取りがうまくでき、的確な状況判断ができるようになれば、「新人」から卒業。そして料理が作れるだけでなく、マネージメント、人(後輩、客)をどう動かすか、人の把握ができるようになって、ようやく近藤さんの認める「一人前」となる。

最後に近藤さんは、「料理人として遊び心をいつまでも忘れないでほしい」と、料理の道を志す新人にエールを送ってくれた。

◆こんどう・よしろう(「文流」総料理長)写真中央=昭和23年東京生まれ。脱サラから調理師専門学校を経て、同店に入社。以後イタリア料理の第一人者として、日本とイタリアの文化交流の橋渡し役として活躍。カジュアルイタリアンがはやるなか、伝統・文化の継承をモットーに独自の料理を展開。年配層から絶大な支持を得ている。また、同店は学生時代の皇太子がごひいきだったことでも知られる。

◆「リストランテ文流」=東京都豊島区西池袋3‐25‐2、大晴ビル二階、Tel03・3982・3230、営業時間午前11時30分~午後2時、5時~9時30分(日祝~9時)、第3月休み

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