新店ウォッチング:「KOOTS GREEN TEA」神谷町城山ヒルズ店

2003.03.03 266号 12面

スターバックスコーヒーが火を付けたスペシャルティーコーヒー業態の後発チェーン「タリーズコーヒー」を展開するフードエックス・グローブは、昨年11月、子会社「クーツグリーンティー」を設立し、東京・虎ノ門に緑茶の専門店「KOOTS GREEN TEA」(クーツグリーンティー)城山ヒルズ店をオープンした。

フードエックス社は現在、フランチャイズによりタリーズコーヒー店を一〇〇店舗以上展開するタリーズコーヒージャパンの持株会社であるが、この新会社設立によって、「伝統的で新しい茶文化を提案」することを目的として、「心と手をかけ、本当においしい日本茶を服す」をテーマにした緑茶カフェの新業態の展開を狙っている。

その一号店であるこの店は、地下鉄日比谷線の神谷町駅から六本木アークヒルズ方面に向かって緩やかな坂を上った途中にあり、周辺はスターバックスコーヒーをはじめ、ドトールコーヒー、カフェベローチェ、プレタ・マンジェなど、喫茶関連のチェーンが軒並み出店する激戦区だ。

店舗は「タリーズコーヒー」などのスペシャルティーコーヒー店と同じセルフ販売方式であり、独自のトレーニングを受けた「ティーシェルジェ」と呼ばれる茶のスペシャリストが、専用の器具や機器を用いてカウンターで煎茶や抹茶など緑茶商品を調製し、「おにぎり」や「和菓子」といった軽食とともに提供するという、まったく新しいスタイルの喫茶店となっている。

店舗のデザインは、緑茶のイメージであるグリーンを基調に構成されており、店内はロゴマークやグラフィックデザインをはじめとして、天井、石タイルの床など、さまざまな濃淡トーンの異なるグリーンが多用されている。アクセントとして和風の素材やガラス、座面が黒レザーのナチュラルな藤巻きのイスなどが配置されたシックなインテリアの中、BGMには洋楽が流れる店舗は、緑茶専門店とは思えないファサードの雰囲気に、カウンターでコーヒーを注文してしまう客の姿も見受けられた。

ドリンクメニューは、日替わりで提供する「本日の煎茶」(S二五〇円~)がメーンであり、専門のスタッフが急須を使っていれたての一煎目のみを提供する。そのほか、「抹茶ラテ」(S二八〇円)、黒みつときな粉を加えた「クロミツラテ」(S三一〇円)、「抹茶アメリカーノ」(S二五〇円)など六種類の抹茶ドリンクを三サイズ用意して提供、テークアウトにも対応する。全国から選りすぐった高級茶葉を使用し、オリジナルのブレンド茶葉の販売なども行っている。

フードメニューは、注文を受けてから手作業で握る「こにぎり」と呼ばれる小さな「おむすび」のほか、ロールずしや、和風サンドイッチ、「おはぎ」のような和菓子などがラインアップされている。

わが国では「緑茶」自体をメーンにしたチェーン業態はまだ確立されていないが、近年の和食ブームやおにぎりなど関連市場の拡大を見ても、この時期、同店が提案するスタイルが定着する可能性は十分にあるといえる。店内には中高年の女性客の姿も目立つなど、従来スペシャルティーコーヒー系の業態がなかなか取り込むことができなかった客層を取り込めているのも特徴的である。この店の成功によっては、マーケットが停滞を見せはじめているスペシャルティーコーヒー業態に代わって、「喫茶」業界が大きく市場を拡大できる可能性もあり、各方面で注目を集めている。

◆店舗データ

「KOOTS GREEN TEA」神谷町城山ヒルズ店(クーツグリーンティー(株)、東京都港区虎ノ門四‐三‐一、城山JTビル)開業=二〇〇二年12月12日、店舗面積=五〇坪、客席数=約五〇席、営業時間=平日午前7時~午後9時30分、土曜午前8時~午後7時、日・祝休み

◆取材者の視点

ドリップ機器の普及によって、家庭内でのレギュラーコーヒーの需要が増えてきているとはいいながら、外食では「お金を払って飲むもの」という意識が定着しているコーヒーに比べ、日本茶(緑茶)は「茶葉を買って家庭内でいれる」というスタイルが中心の飲み物だ。

各飲料メーカーや製茶会社の努力により、缶入りとペットボトルでの緑茶マーケットを生み出すことに成功したが、その需要の多くは「緑茶のおいしさを追求して」というよりも「健康やダイエットのために甘味料の入っていない飲料を選択する」という、どちらかといえばネガティブなニーズに支えられているように思える。

コーヒーと違って鮮度劣化が極端に激しい「緑茶」は、飲食店での販売が技術的に難しいという側面もあり、多くの飲食関連企業は「緑茶による専門店チェーン化」という夢を抱きつつも、需要とマーケットを読み切れずに逡巡(しゅんじゅん)していたというのが現状だろう。

そうした中で、クーツグリーンティーの新業態は注目を持って迎えられるはずだ。と同時に、もし、この店がブレークする気配を見せた時には、さまざまな企業が、先を争いこぞって参入してくるという状況になることは間違いない。その時に、先行チェーンとしての優位性を確保できるだけの、技術的な経営ノウハウがあるかどうかが同社の飛躍のカギになることだろう。

ただ、缶入り緑茶とペットボトルの価格帯が一二〇円~一五〇円である現在、メーン商品の価格帯が二五〇円以上という業態が、どれだけスムーズにマーケットを取り込めるかどうか、また、店内で販売している茶葉の価格も、一般の小売価格に比べてかなり高いことも気になる。

◆筆者紹介◆

商業環境研究所・入江直之=店舗プロデューサーとして数多くの企画・運営を手がけ、SCの企画業務などを経て商業環境研究所を設立し独立。「情報化ではなく、情報活用を」をテーマに、飲食店のみならず流通サービス業全般の活性化・情報化支援などを幅広く手がける。

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