動き出す「牛肉トレーサビリティ」 12月からすべての国産牛に固体識別番号

2003.10.06 275号 2面

すでに通達で明らかになっている細かい点を確認していこう。

一・ここでいう精肉とは、「牛個体識別台帳に記録されている牛(現段階では国産)で、と畜場や食肉処理場から搬出された「枝肉」や「部分肉」からカットされた精肉」を指す。逆に対象とならないものは、牛肉の加工・調理品、挽肉、切り落とし、舌、頬肉、ホルモンなどの内臓。

二・対象となる外食店は、特定料理=牛肉(国産・輸入問わず)を原料にした「焼肉」「しゃぶしゃぶ」「すき焼き」「ステーキ」を主たるメニューとして提供している事業者。

具体的には、(1)一事業者における過去一年間の特定料理の売上げが、料理全体売上額の二分の一を超える(2)牛肉の仕入れ数量・金額が、食材全体の仕入れ・金額の二分の一を超える(3)特定料理のメニュー数が、全体のメニュー数の二分の一を超える、のいずれかに該当する事業者。

輸入牛が原料のほとんどを占める焼き肉店も、法律上「特定料理を扱っている事業者」とみなされて対象になる。

したがって、メニューの中に和牛を使用したものがひとつでもあれば表示義務がある。

一方、上記の料理を出していても、部分的にメニューに含まれているだけのファミリーレストラン、居酒屋などは対象にならない。

では店舗での表示方法は、どうしたらいいか。これが飲食店にとって一番分かりづらい部分だろう。

法律では、「ひとつのメニュー(注文単位)ごとに、対応する一頭の牛肉の個体識別番号(一〇ケタ)を表示すること」が原則となっている。しかし、牛一頭ごとの番号をいちいち管理することなど、現実的ではないのが現状だ。

そこで通達では、「ひとつのメニュー(注文単位)で、複数の個体識別番号、またはこれに代わる番号、または記号(荷口番号)を表示してもよい。その場合の複数の上限は五〇頭まで」とした。つまり、以下の三つの方法がある。

ア・《カルビに使用している肉は、「1234567890」~「0000000000」》 のように、複数頭をまとめて表示してもよい。

イ・また複数をひとつにまとめた番号を、独自に「1」や「20030801」(日付番号)のように、一括表示してもよい。(その場合、消費者が求めたときには、内訳の個体識別番号を答えられることが原則)

ウ・仕入れ業者などが、すでに複数をひとつにまとめた「荷口番号」(ロット番号)を付けているときには、その「荷口番号」を表示し、その業者の名称、連絡先などを併記すれば、外食店自らが、その荷口番号に対応する個体識別番号を、消費者に答えられなくてもよい。

法律で対象となる飲食店は、個店ごとに一業者とみなされる。よってチェーンであっても、店舗ごとに対応できなければならない。そうなると一番現実的なのは、「ウ・仕入れ業者などが、すでに複数をひとつにまとめた『荷口番号』を使う」方法だろう。しかし、消費者の信頼にこたえるためには、できるならば固定識別番号をきちんとメニューに添付できることが望ましいだろう。

すき焼きの老舗「人形町今半」では、8月からすでに新宿小田急の店舗で、実験的に生産地と個体識別番号をメニューに表示している。「BSEでは七~八割近く売上げが落ち込んだ時期もあった。信頼の回復が一番の課題」(高岡副社長)と、最も打撃を受けた業態だけに、トレーサビリティにも積極的だ。

今回対象になる他の飲食店も、まず国産和牛が主体のこの業態がどう対応するか注目している。高級和牛を扱う店舗の場合、仕入れ単位もブロックでまとまっているため、一頭ごとの番号を把握しやすい。

ただ表示については、「店の目立つ場所に番号を張るのは、見た目にもナマナマしくて格好良くない」という感想だった。表示の仕方はまだ模索段階だ。

他方、輸入牛や内臓の使用が多い焼き肉店の場合、まだ目立った対策は立てていないのが現状のようだ。全国焼肉協会では検討委員会を発足し、店舗での具体的な対応方法を明記した手引書の作成に取りかかっている。早くて年内にも出来上がれば各社に配布する予定という。

この法律のもうひとつの目的は、「食肉偽装の防止」にある。とくに「和牛」と表示されているにもかかわらず、実態は輸入牛だった、ということは外食業界でも公然と行われている。前段で説明したように、対象には「切り落とし」などは含まれず、この法律でカバーできる精肉は、全体の六割といわれている。極端な話、「切り落とし」で逃げ切る方法もあるわけだが、メニューに「和牛」「国産」を掲げる以上対応できないと、消費者の信頼は得られないだろう。

なお、農水省消費・安全局は、該当する事業者を調査し、規制対象者を明確にする観点から、年内に農水省のホームページなどに、店舗名を公表する。

法の施行は12月1日だが、外食の表示規定の施行は、平成16年12月1日で一年間の猶予があり、各社の対応が注目されるところだ。(阿多笑子)

◆牛肉トレーサビリティ法・外食店の法的義務について

・法律の対象のとなる飲食店

「焼肉」「しゃぶしゃぶ」「すき焼き」「ステーキ」を主に提供する外食店

・表示および管理義務

材料の牛肉の個体識別番号を、店舗の見やすい場所に表示しなければならない。

また、その牛肉の伝達情報を記録し、管理することが義務付けられる。

・罰則

必要な措置を遵守せず、改善命令にも違反した者は、30万円以下の罰金刑。

・外食の表示規定の施行は、平成16年12月1日、(法の施行は15年12月1日)

・公表

農水省消費・安全局は、該当する事業者を調査し、規制対象者を明確にする観点から、本年度中に農水省のホームページなどに、該当する店舗名を公表する。

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