ニューウェーブ・外食ビジネス:ネット通販の「オイシックス」、こだわり野菜宅配
「生産者の素性や栽培方法が分かる、安全で安心な農産物が欲しい」。消費者のヘルシー志向や安全性への関心の高まりを受けて、昨今飲食店でも、有機や減農薬栽培といった野菜の仕入れに力を入れるところが増えてきた。しかし一般市場や出入りの八百屋だけで、こうした特別な農産物を、欠品も出さず安定的に仕入れることはまだ難しい。そこでいま第三の仕入れルートとして注目されているのが、インターネットの専門業者による宅配だ。今回は、開設以来、右肩上がりの成長を続けている食材宅配の「オイシックス」(東京都品川区)を取り上げる。(阿多笑子)
オーガニックカフェやレストラン、こだわり野菜をふんだんに使ったヘルシーレストランがいま、若い女性たちに限らず、幅広い年代層の人気を集めている。一般の飲食店にとっても、かつて「野菜は単価が取れないメニュー」といわれたが、いまはいかに野菜のおいしさを生かした料理を提供できるかが、店のセンスの見せどころだ。
また料理人のこだわりにも、「土作りから安全でおいしいものを作っている生産者に共感し、さらにそれを高めてお客さまに提供したい」という真摯な思いがある。こうしたおいしさのリレー、素材のこだわりをお客さまに伝えるために、欠かせないものが「情報」だ。単に生産者の顔の見える野菜、有機や減農薬の野菜を仕入れるだけでは、店のコンセプトも、料理人の思いも伝わりにくい。そこにいかに情報を付加していくかが、こうしたマーケットで成功するコツだろう。
インターネットを利用するメリットは、生産者の顔から栽培履歴、商品の特徴などを画像でリアルタイムに見ることができ、それを店のマーケティングやセールストークに活用できることだ。
「Chef’s Oisix」では、「こだわりレストランさま向け、安心・安全野菜販売サービス」と銘打って、とくに利用頻度の高い二〇品目の野菜を、全国の産地からリレー出荷で通年供給するとともに、特徴ある旬の野菜を常時紹介。一ヵ月に一度、商品ラインアップとおすすめ情報をメールやFAXで提供している。
生産者の顔や栽培方法などの詳しい情報は常にホームページにアップされており、メニューに使いたい場合、画像をそのままダウンロードしてPOPなどに使えるサービスもある。
またユニークなのは、野菜の特徴や料理法だけでなく、「ホールスタッフが簡単に覚えて、話せる文句」を提案していることだ。たとえば昨年11月は、同社が独自に売り出した「ピーチかぶ」が大ヒットしたが、(1)糖度が高く、切り口がみずみずしい(2)「ハクレイ」という珍しい品種。果肉の肌がなめらかで舌触りが良い(3)11月しか食べられない‐‐などのキャッチコピーが並ぶ。
「オイシックスから購入していただく意味は何なのか。安全でおいしいということもありますが、その情報をお客さまにまで伝えるためには、どううたえばいいのかも提案させていただく。こうした会話ができると、ホールスタッフがウチは良いものを使っているんだと自信を持つ効果もあります」(山川氏)と言う。
こうしたユーザーの視点に立った細やかな営業サポートが、既存の宅配と異なるところだろう。
利便性においても、個人宅配で培った小回りの良さから、業務用でも一ケース単位、三〇〇〇円以上から、メールやFAXで注文できる。発送は毎日で、変更・追加も前日まで可能だ。また価格も個人向けより二割程度安い設定になっている。
現在都内を中心に、オイシックスと契約しているレストランは五〇店。オイシックスのホームページでは、それらのレストランを紹介し、使用している食材の品目や詳細な情報も閲覧できる仕組みだ。オイシックスファンがこれらのレストランに足を運び、またレストランで食事をした顧客が食材を気に入って、オイシックスで購入するという相乗効果を狙っている。
今後は業務用の扱い品目をさらに広げ、加工品や調味料も増やすなどサービスを拡充していく方針だ。
◆生産者は1000軒も
二〇〇〇年6月創業のオイシックスは、個人向けの宅配から始まった。現在の個人メールマガジンの購読者は一七万人。うち注文の経験者は五万人。インターネットの窓口だけで、昨年12月の月商は八〇〇〇万円(前年比一九三%増)と急成長している。
生産者を約一〇〇〇軒抱え、有機や減農薬の野菜や加工品を販売する同社に対し、これまでも同業の宅配がなかったわけではない。しかし既存の他社が「セット販売が中心」「配送日が決まっている」など利便性に乏しかったのに比べ、「一個からでも注文可能」「指定日の指定の時間に届ける」などの消費者重視の購入方法と、きめ細かい産地情報の提供、消費者の声をフィードバックした商品開発などで、消費者の支持を集めた。とくに有機宅配や生協を利用する層とは異なる三〇代の若い女性層を掘り起こしているのが特徴だ。
商品も「焼き芋屋さん指名買いのサツマイモ」「TV番組どっちの料理ショーで取り上げられた豚肉」など、安全性だけでなく、おいしさや話題性もアピール。リピーターが増えるに従い、「オイシックスで扱っている食材を食べられる飲食店をつくってほしいという要望が増えてきた」(山川奈織美マネジャー)という。同時にレストランからも業務用はできないかという問い合わせも入る。
そこで昨年5月、外食店向けのサービス、「Chef’s Oisix」が立ち上がった。それ以前の3月にも、スープ専門店「スープストックトーキョー」と共同開発で、契約農家のキャベツのポタージュを発売。好評だったため、今年3月1日にも新シリーズで「安納芋のスープ」が発売された。